交差拡散を伴うロトカ・ボルテラ競争系は重定-川崎-寺本の提唱(1979)以来,SKTモデルとよばれ,国内外で盛んに研究が続けられている.定常問題に関する重要な結果として,Lou-Ni(1999)が片方の交差拡散係数を零とし,もう片方の交差拡散係数を無限大にした際,定常解の収束先を特徴づける極限系が2つ存在することを示している.その内の片方の極限系は,生物種の棲み分けを特徴付け,第1極限系とよばれる.もう片方の極限系は準線形楕円型方程式の系となり,交差拡散効果を備わない種の減衰を特徴付け,第2極限系とよばれる.研究代表者はこれまで第2極限系の研究を重点的に行い,平成29年度までに第2極限系の解の大域分岐構造の概要を得ていた.具体的には,交差拡散効果を備わない種の増殖率を分岐パラメーターとするとき,パラメーターがラプラシアンの固有値に漸近すると,分岐枝が1つの成分に関して爆発し,その爆発点の近くでは分岐枝上の解が線形化不安定であることを示した. 平成30年度には,爆発点の近くの分岐枝上の解の不安定性を定量的に調べることに成功した.具体的には,分岐枝上の解を中心とする線形化作用素の固有値が,1個だけ正で他は負であり,分岐パラメーターが爆発点に近づくと最大固有値が零に近づくことが示された.すなわち,第2極限系の解は,分岐枝上で爆発点に近づくと不安定性を弱めることが判明した.この事実は,交差拡散係数を無限大とした極限系から交差拡散係数が大きいSKTモデルへの摂動を考える際,スケール変換を経て,第2極限系の爆発点がSKTモデルのサドルノード分岐点に対応する性質に合致している.サドルノード分岐点では第1極限系からの摂動される安定な定常解の枝(upper branch)と第2極限系からの摂動される不安定な定常解の枝(lower branch)を繋ぐため,固有値零の退化性を持つからである.
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