研究課題/領域番号 |
15K04954
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研究機関 | 名古屋大学 |
研究代表者 |
菱田 俊明 名古屋大学, 多元数理科学研究科, 教授 (60257243)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | 非圧縮粘性流 / Navier-Stokes方程式 / 外部問題 / 漸近挙動 / 安定性 / Stokes半群 / Oseen半群 / 制御 |
研究実績の概要 |
空間3次元の外部領域におけるNavier-Stokes方程式と流れを障害する剛体の運動方程式の連成系を考察した。何らかの定常状態の安定性を調べる際にまず問題となるのは、時間依存の並進速度、回転角速度を移流項の係数に伴う場合の線型化作用素が生成する発展作用素の長時間挙動である。そこで、本研究では、まず初期値がLebesgue空間に属するときの発展作用素の時間減衰評価を求めた(論文準備中)。また、定常問題自体も考察した。特にシステム全体に外から力とtorqueが働かず、剛体が流体との境界面での相互作用だけによって運動する場合に、指定された剛体の運動をself-propelled運動として達成する制御を境界上で構成した(掲載決定)。この制御のもとで定まる定常解の安定性の解析が期待される。剛体が回転はせずに定められた並進のみの運動を行う場合の Finnのstarting問題に対して、剛体が有限時間後に到達する並進速度は小さいとするが、任意に大きい3乗可積分な初期値からstart したときの定常解のattainabilityを示した(専門誌で査読中、また arXiv:1704.00452 で公開されている)。次に、障害物のない全空間での問題に対して、時間依存流がある臨界クラスで小さいときのエネルギ一安定性と擾乱の減衰評価を示した(Indiana Univ. Math. J. 2016)。以上の成果はいずれも空間3次元であるが、2次元外部問題にも取り組んだ。一般に、非有界領域において漸近挙動が本質的な論点となるときには、3次元よりも2次元のほうが格段に難しい。本研究では、剛体が回転運動するときに、流れの空間無限遠での詳細な漸近展開を通して、回転効果により Stokesの逆理が解消される機構を明らかにした(Springer Proc. Math. Statistics 2016)。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
非圧縮粘性流体の中の物体の運動と流体の運動の相互作用の数学的解明、また関連する諸問題の数学的基礎を与えることを研究目的とする。この問題は物体の運動も未知であり、その意味で自由境界問題となる。また、物体の運動を与える場合であっても、それぞれの状況に応じた定常流等の主流の安定性あるいはattainability を研究することは、それじたいの関心にとどまらず、上記の相互作用問題の解析を展開する上での基礎となる。その意味で、物体が並進のみによって運動する場合の Finnのstarting問題を従来よりも広い枠組みで解いたこと、すなわち初期値を大きく与えたときの定常流の attainabilityを証明したことは、成果であった。また、一方で、物体の並進速度および回転角速度がいずれも時間に依存するときの線型化問題が生成する発展作用素の時間減衰評価を妥当な条件のもとで得られたことは、いろいろな状況のもとで存在する主流の安定性を考察する上で大切な役割を果たすものと期待される。さらに、定常問題に対して、self-propelled条件のもとで境界上での制御を構成したこと、しかもその制御の台を境界上で指定された任意に小さなportion に含まれるようにできることは、最適制御問題へ向けての第一歩であり、例えば物体が流れから受ける抵抗を最小にするような境界上での制御関数の発見と対応する定常解の安定性の考察につながる成果と言える。最後に、2次元平面上での同様な問題の解析も視野に入れているが、線型定常問題という最も基本的なレベルにおいて、特に物体の回転の効果による解の減衰構造の変化を見出したことは、平面上での流体と物体の相互作用の解析への可能性を開いたものである。並進効果については従来すでによく知られていたので、本研究での知見と併せることで、今後の展開が期待される。
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今後の研究の推進方策 |
まずはじめに、Finnのstarting 問題に対して本年度に得られた研究成果の拡張として、物体の運動を並進に限らず回転もする場合に、大きい3乗可積分な初期値からstartしたときの定常流のattainability を示すことは可能であると考えており、これによってstarting問題の完全な解答が得られる。また、定常問題に対して、物体が流れから受ける抵抗を記述する汎関数をつくり、自明解を排除する適当な付帯条件のもとで、その汎関数を最小化するような制御、すなわちその意味での最適制御の存在を示す。最適制御解の一意性は、それを特徴づける境界値問題の解の一意性を通して示されると期待している。最適制御解の安定性の考察においては、本年度に得られた発展作用素の長時間挙動が基本的な役割を果たす。もちろん、その最適制御解を係数にもつ低階項を伴う線型化作用素の解析、すなわち発展作用素の生成と平滑性、減衰評価を改めてすべて示す必要があるが、self-propelled条件のもとでは、上記の最適制御解も含めて定常解の空間無限遠での減衰度が良いことが漸近展開によって分かっているので、そのような線型レベルでの解析は十分に進められると考えている。また、2次元平面上での物体と流体の相互作用を解析するにあたって、3次元の発展作用素に対する上記の成果と同じことが2次元では得られていないので、これを進展させることが不可欠である。並進速度が定数ベクトルであっても従来の成果 (研究代表者による J. Math. Soc. Japan 2016で発表された減衰評価) には改良すべき点があり、さらに回転も伴う場合には、回転角速度が定数ベクトルの場合であっても長時間挙動に関する結果がないので、まずこれらを解決することが重要であり、そのために、線型化方程式が autonomousの場合に通用するスペクトル解析を行う。
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次年度使用額が生じた理由 |
予定通りに海外渡航、国内出張を行ったが、図書等の物品等を購入しなかったので、残額が出た。また、海外渡航1件については、当初予定と異なり、主催者側が滞在費を負担してくれたことも、当資金に残額が出た理由である。
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次年度使用額の使用計画 |
7月にスペイン、8月にリトアニアで、当研究計画に関わる国際会議があり、渡航して研究発表を行うことが確定している。その費用を当資金から支出する。また、共同研究を継続しているフランス、ポルトガル、イタリアの研究者の議論するために、渡航することも計画している。さらに、6月にドイツの研究者を研究代表者の所属機関へ招聘して、当研究計画に関わる新たな共同研究を開始することが確定している。その費用を当資金から支出する。
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