研究実績の概要 |
研究代表者大鍛治隆司は、Hubert Kalf氏(ミュンヘン大学)・ 山田修宣氏(立命館大学)との共同研究において、数理物理学における最も重要な作用素の一つであるDirac作用素H=α・p+mβ(m≧0)に対する一様な極限吸収原理についての考察を行った。ここで、極限吸収原理とは、zが実軸を除いた複素平面内の領域内を動いた時の実軸近傍でのレゾルベント1/(H-z)に対する重み付き評価式(複素位相エネルギー評価式)のことであり、複素変数zの実部が閾値(z=+m, -m)に等しい場合も許される時一様極限吸収原理という。この一様極限吸収原理が成り立つ重み関数のクラスについて考察を行った。その結果、ディラック作用素が1階システムである為、粒子の質量mが零である場合(massless case)とそうでない場合(massive case)について許容される重み関数(複素位相)のクラスが異なることが明らかになった。実際massiveの場合の方がmasslessの場合より狭い範囲でしか成り立たないことが示された。この証明中において、全空間で定義された関数を球面へ制限して得られるトレース作用素が、全空間上の位数1/2のソボレフ空間から球面上の2乗可積分関数の空間への連続作用素であり、かつ球面半径に依存しない有界線型評価式が重要な役割を果たすことが知られている。このトレース作用素についての評価式を示すのには通常は、抽象的補間法を用いるのであるが、今回それを用いない新たな初等的証明方法を見いだすことに成功した。その結果有界線型評価式の重み関数(複素位相)のクラスとしてより広い範囲のものにまで適用できる可能性が広まり、今後この知見のさらなる応用が期待される。
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