研究課題/領域番号 |
15K04959
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研究機関 | 愛媛大学 |
研究代表者 |
伊藤 宏 愛媛大学, 理工学研究科, 教授 (90243005)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | 関数解析 / 数理物理 / 関数方程式 |
研究実績の概要 |
論文(J.Math.Soc.Japan,2011)で筆者と連携研究者は,作用素の複素化の方法(伸長解析的方法)を用いて遠方で発散する解析的な電場ポテンシャルの入ったディラック作用素のスペクトルの性質を決定し,光速が十分大きい場合には,対応する2つのシュレーディンガー作用素の固有値とレゾナンス(複素固有値)の近くにディラック作用素のレゾナンスが存在することを示した。また,原点を中心とする有界な領域においては光速が十分大きい場合にはレゾナンスは存在しないことを示した。現在の研究においては,磁場ポテンシャルも入っているディラック作用素で同様のことを調べている。ディラック作用素をFW変換(対角化)すると,2つの相対論的パウリ作用素の直和と摂動からなる作用素に変換される。当該年度において,有界な磁場ポテンシャルをもつディラック作用素について次の2つが主な研究結果である:(1)複素化した相対論的パウリ作用素と複素化した相対論的シュレディンガー作用素の差を表す公式を導くことで,複素化された相対論的シュレディンガー作用素で証明されていた大域的楕円型評価が複素化された相対論的パウリ作用素でも成り立つことを証明した。(2)今まで,ディラック作用素をFW変換された作用素だけの解析では,その作用素のスペクトルの性質などを示すことが出来なかった。証明の途中で,もとのディラック作用素の性質を用いる必要があった。今回,(1)の結果と相対論的シュレディンガー作用素の詳しい解析を行うことで,ディラック作用素の性質を用いることなく,変換された作用素のスぺクトルの性質などを明らかにすることが出来た。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
主に取り組む問題は,筆者と連携研究者との研究(J.Math.Soc.Japan,2011)を発展させて,遠方で発散する解析的な電場ポテンシャルをもつディラック作用素に磁場ポテンシャルを入れることであり,磁場ポテンシャルと電場ポテンシャルとの競合により,スペクトル構造やレゾナンスについてどのような変化が現れるかを見ることが最終目標である。ここで用いる方法では,デイラック作用素を対角化する(FW変換)ことで,2つの異なる構造をもつ相対論的パウリ作用素の問題と摂動論の問題に帰着させている。磁場をもつ相対論的パウリ作用素の解析の困難さは,その作用素が磁場をもつパウリ作用素の作用素としての平方根によって与えられていることである。これは,通常の擬微分作用素としても表現することが出来ない。しかし,当該年度の研究により,その平方根を磁場を含まない簡単な擬微分作用素と摂動に分解でき,磁場の効果を取り出すことができた。このことを用いて,複素化された相対論的パウリ作用素の大域的楕円型評価が得られた。現在はまだ有界な磁場ポテンシャルの場合であるが,非有界な磁場の場合にも改良出来れば,最終目標に着実に近づくと思われることから「おおむね順調に進展している。」とした。
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今後の研究の推進方策 |
(今年度から,研究進展のため安藤和典准教授(愛媛大学)を連携研究者に追加する。) 研究代表者は,連携研究者(山田修宣(立命館大学),田村英男(岡山大学),岩塚明(京都工芸繊維大学),野村祐司(兵庫県立大学),峯拓矢(京都工芸繊維大学),安藤和典(愛媛大学))と研究連絡を行いながら研究を進めていく。「作用素論セミナー」(京都大学),「解析セミナー」(愛媛大学),「夏の作用素シンポジウム」などを中心に国内外の研究者と情報交換しながら研究を進める。また,計算機を用いた計算やインターネットを用いた文献収集および電子メールによる情報交換を行う。 具体的な主な研究については,研究代表者が中心となり,遠方で発散する電磁ポテシャルをもつディラック作用素について,次の3つの問題の解決を目指す:(1)今までの研究では,ポテンシャルに対して実ユークリッド空間の非常に小さい近傍での解析性を仮定していたが,もっと大きな領域での解析性を仮定することで,レゾナンスの非存在領域を精密化する。(2)具体的なポテンシャルを与えた場合のレゾナンスの存在・非存在について詳しく解析を行う。(3)遠方で発散する磁場ポテンシャルをもつ場合に,相対論的パウリ作用素から磁場の影響を取り出すことで,磁場と電場の競合について解析を行う。 各連携研究者は,固有値の非存在問題,アハラノフ・ボーム効果,グラフ上の作用素のスペクトル解析,境界値問題におけるスペクトル問題など,各自得意とする関連する領域でこの研究課題を念頭に研究を進める。
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次年度使用額が生じた理由 |
1.windowsパソコンをに購入する予定であったが,windowsのOSがwindows8からwindows10に切り替わった。windows10をもつパソコンでは,今まで利用していたソフトなどが利用できるか,OSは安定しているかなど評価が定まっていなかったため,次年度に購入することにした。 2.いくつかの研究集会に出席する予定であったが,都合により出張することが出来なかった。
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次年度使用額の使用計画 |
1.次年度にデスクトップパソコンを購入して,インターネットなどを通じて文献の収集や連携研究者との研究連絡を行う。また,必要な場合には,タブレット端末またはノート型パソコンも購入して,デスクトップパソコンでのデータをそれらに入れることで他の研究者との情報交換や研究発表などを行う。 2.積極的に研究集会等に出席して他の研究者と情報交換を行う。
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