本研究では、反応拡散系における、角遷移層と呼ばれる特異性を持つ解と、複数種個体群の多段階侵入を表す動的パターンの解に対し、それらの理論的裏付けとして、漸近解の理論的な構築と挙動の解析の基礎となる研究を進めた。その実績は、以下のとおり。
1.複数の反応拡散系に対して角遷移層の発生機構を形式的に調べ、それらに共通する特徴を整理・検討した。研究代表者と研究分担者は、検討結果をヒントに、平成29年度までに二つの成果を得た:2成分の非可逆化学反応系に対し、反応速度の係数が充分大きくなった特異極限が、2成分の反応速度の比の濃度依存様態に応じてさまざまな界面ダイナミクスを生み出すことを明らかにした;拡散場での近接相互作用を記述する反応拡散系の特異極限として遠隔相互作用も得られることを示した。最終年度(平成30年度)は、これらの成果を踏まえ、角遷移層などの特徴的な形状を持つ解を調べる手法として有望な「反応拡散近似」について、漸近解析の出発点となる種々のアイデアを整理した総合報告論文を出版した。
2.複数の進行波を適切に重ね合わせて多段階侵入型漸近解を構成することを目指し、漸近解の構成単位となり得るさまざまな進行波の形状・速度が満たすべき特徴を整理・検討した。検討結果をヒントに、興奮場を記述する反応拡散系の特異極限において空間が2次元の場合の進行波の存在・一意性・安定性を平成29年度までに研究分担者が確立した。現状では、多段階侵入型漸近解の構成には至ってないが、発想を反転させることにより、Allen-Cahn方程式の特解として、限りなく遠い昔に各段差が3つまたは4つの異なる速度で進んでいた多段階形状波形がある時刻で消滅または1段階波形に退化してしまう状況を表す解の構成に、研究分担者が最終年度(平成30年度)に成功した。ここで得られた諸知見は、多段階侵入型漸近解の構成の糸口を与えるものと期待される。
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