研究課題/領域番号 |
15K04964
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研究機関 | 公立はこだて未来大学 |
研究代表者 |
高村 博之 公立はこだて未来大学, システム情報科学部, 教授 (40241781)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | 半線形波動方程式 / 初期値問題 / 解の最大存在時間 |
研究実績の概要 |
研究代表者が昨年度に導出した、半線形波動方程式に対する初期値問題の解の最大存在時間を上から評価する際に主要な働きをする常微分不程式に対する「改良型加藤の補題」は、高次元波動方程式の基本解に含まれる微分損失の影響を回避し全次元を統一的に扱う解析方法として優れていた。その微分損失がない低次元では既存の結果に影響を与えるようなことはないと思われていたが、空間2次元において今まで知られていなかった新しい予想を与え、その一部の証明に応用することができたことが今年度の主要実績である。以下にそれを詳しく述べる。 未知関数自身の冪型非線形項に対する解の最大存在時間評価は、空間次元が3以上、または、空間2次元で指数が2より大きい場合、臨界冪や劣臨界冪に対する結果は各次元に共通な形で記述できる。しかしながら、空間1次元ではその特殊性から初期速度の全空間積分量がゼロであるか否かで結果が分かれていた。また、空間2次元で指数がちょうど2の場合も同様の結果があり、初期速度の全空間積分量がゼロでない時は、全次元に共通な最大存在時間より解が早く爆発することが知られていた。この2次元の結果は1990年にH.Lindbladによって発表されたものであるが、その解析手法の複雑さや何の影響による現象かが明らかにされていなかったため、指数が2より小さい場合の解析が長らく停止しており結果の予想すらなかった。 今回、それと同様の現象が未解明の指数に対しても存在し、それが改良型加藤の補題を適用するために解の1次評価を非線形項に代入する際の時間に関する可積分性から発生することを突き止めた。これにより、この未解明部分に対する最終結果の予想を与えることができ、その一部である解の最大存在時間の上からの評価を、初期速度の全空間積分のゼロ・非ゼロに分類して導出することに成功した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
本研究課題の主要対象は高次元波動方程式であり、解の最大存在時間の証明を統一的に扱う手法を提示したことに、後の初期境界値問題への応用を考えるとある程度大きな意義があった。しかしながら、副産物として25年近くも空白だった低次元の部分に、予想とその一部の解決を与えることができたのでこの評価とした。
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今後の研究の推進方策 |
今年度の主要実績は年度末の日本数学会年会函数方程式論分科会の一般講演で公表したが、その前後にその結果が消散項付き波動方程式にも応用できることがわかった。消散項があると解は熱方程式のそれと波動方程式のそれの中間的な性質を持ち、解析手法も大きく異なる。この事実によって各分野の研究者が異なり、なかなか研究交流が発展してこなかった。 現在はスケール不変な半線形消散波動方程式の一部にしか適用できておらず、解の熱的挙動と波動的挙動を分ける臨界状態を決定するに至っていない。しかしながら、研究代表者の解析手法が波動的挙動を捉える道具として大きく発展する可能性があり、その中で本研究の主要テーマである高次元波動方程式の解に含まれる微分損失が消散効果によってどのような影響を受けるのか明らかにすることを優先的に研究する予定である。
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次年度使用額が生じた理由 |
「今後の研究の推進方策」に記載した通り、消散項付き波動方程式への重要な応用が得られそうだったので、緊急に400,000円の前倒し請求を行った。しかしながら、専門的知識の提供を受ける予定だった研究者2名の都合が年度末に近かったため合わず、所属研究機関へ招聘できなかったことが次年度使用額を発生させた原因である。
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次年度使用額の使用計画 |
双曲型偏微分方程式の解の爆発に詳しい中国人研究者1名を含む複数の専門家を招聘して、消散波動方程式に関するやや小さめの規模の国際研究集会を所属研究機間で開催する。また、共著論文を執筆するために国内研究者1名を所属研究機間に中期間招聘する。さらに、その結果を日本数学会秋季総合分科会の一般講演で公表する予定である。その間、線形偏微分方程式論の専門家複数人にレビューを受けるため、国内研究集会に2回参加し、研究発表する予定である。
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