研究課題/領域番号 |
15K04969
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研究機関 | 日本女子大学 |
研究代表者 |
愛木 豊彦 日本女子大学, 理学部, 教授 (90231745)
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研究分担者 |
熊崎 耕太 苫小牧工業高等専門学校, その他部局等, 准教授 (30634563)
村瀬 勇介 名城大学, 理工学部, 助教 (80546771)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | マルチスケール / 自由境界問題 / コンクリート中性化 / ヒステリシス / 制御問題 |
研究実績の概要 |
コンクリート中性化における水分の質量保存則を記述する偏微分方程式系を考察対象としている。この系に対し,以下の二つのことを考えた。一つ目は,微視的構造を1次元自由境界問題で記述し,巨視的構造は質量保存則を記述する準線形放物型方程式を採用したマルチスケールモデルの適切性を示すことであり,二つ目は,コンクリート中性化過程に対する制御問題の解析である。これらに対する研究成果は,それぞれ次の通りである。 1.前年度,マルチスケールモデルを考える際,微視的構造変化を記述する自由境界問題において,境界値と解の依存性を明確することが課題となった。そこで,本年度は,境界値を変化させた場合の自由境界の可測性を示すことを目標とした。この目標に対し,まず,境界値を連続的に変化させた場合の解の連続性を示した。次に,その結果を用いて,可測性を示すことに成功した。 さらに,この依存性を用いることで,コンクリート中性化過程における水分輸送過程を記述する偏微分方程式系の解の局所存在を示すことができた。 その一方,微視的領域と巨視的領域をつなぐ境界条件に対する新たな知見も得られた。 2.コンクリート中性化に対する制御問題を考えることにし,その準備として,質量保存則を記述する準線形放物型方程式の一般化について考察した。これまでも,一つの方程式に対し制御問題を考えることで,視点が変わり,方程式の新しい性質を導くという経験をしてきたので,このような新しい取り組みが,マルチスケールモデルの妥当性の検証に有効と考えた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
平成28年度の研究目的(1.3次元コンクリート中性化問題のシステムの解の存在を示すこと,2. 1次元自由境界問題の境界値と解の連続依存性を示すこと)に対する達成度は以下の通りである。 1. 研究計画では,3次元コンクリート中性化過程における水分の質量保存則と二酸化炭素の拡散方程式のシステムについて考察することとなっているが,平成28年度は,まず,水分に対する質量保存則を記述するマルチスケールモデルの時間に関する解の局所存在と解の一意性を示すことができた。ここでの考察から,解の時間大域存在を示すには,解に対するより厳しい最大値原理が必要なことが明確となった。このことは,化学反応による水分生成項に対するより精密な分析の必要性を意味している。 2.1の証明の鍵となったのが,1次元自由境界問題における境界値と解の依存性であった。まずは,連続関数の空間における位相で境界値が変化したとき,解も連続関数の空間の位相で変化することを示した。次に,境界値を可測関数的に変化する場合は,連続関数の極限として捉えることで,解の可測性を証明した。 また,本年度は当初の計画にはなかったコンクリート中性化過程における遊び作用素を用いた水分輸送過程方程式の数学的一般化について考察した。この一般化ができたことで,この現象における制御問題が考察可能となり,数学的には,解の一意性の証明の方法がわずかに改良された。 さらに,我々のマルチスケールモデルにも表れる準線形放物型方程式系の解が時間無限大において減衰していることも示した。ここでは,解の比較対象として,常微分方程式の解を選んだ。そして,常微分方程式の解の時間無限大での挙動を利用して,解の減衰を証明した。
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今後の研究の推進方策 |
1.(マルチスケールモデルの適切性について)今年度,マルチスケールモデルの解の時間局所的存在を示すことができたので,次年度は,解の時間大域的存在を示す。そのために,化学反応による水分生成項に対する仮定が必要なので,まずは数学的に必要な条件を探り,大域解の存在を示した後に,その条件の物理的妥当性について考察する。 2.(微視的領域と巨視的領域をつなぐ境界条件について)今年度新たな知見を得た2領域をつなぐ境界条件に付いてより考察し,数学的扱いやすさや物理的整合性の観点から,その境界条件を評価する。そのため,この種の境界条件に詳しいスウェーデン・カールスタッド大学のMuntean教授と交流し,研究を進めていく。 3.(マルチスケールモデルに対する数値解析について)この2年間は,本研究の理論的側面が順調に進行していたため,数値シミュレーションに時間をかけることができなかった。次年度は,研究最終年度であり,当初の計画通り,数値シミュレーションを重要課題と位置づけ,数値解析に関する研究打合せを増やすなど,これまで以上に時間をかけて取り組む予定である。そのために,オランダ・アイントホーヘン大学・Anthonissen教授とも研究交流を進めていく。 4.(制御問題について)今年度交後半から取り組み始めた,コンクリート中性化過程における遊び作用素を用いた水分輸送過程方程式の制御問題について考察する。そのために,まずが多価関数で表現される制御問題の基礎理論や応用を学び,それらを踏まえ,制御問題の解の存在を証明する。
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