研究課題/領域番号 |
15K04983
|
研究機関 | 東京理科大学 |
研究代表者 |
渡邉 昇 東京理科大学, 理工学部, 教授 (70191781)
|
研究期間 (年度) |
2015-10-21 – 2019-03-31
|
キーワード | エンタングルメント / 量子チャネル / 量子エントロピー / 量子力学的エントロピー / 量子情報理論 / 量子符号化定理 |
研究実績の概要 |
情報理論は、現代の情報化社会を支える基礎理論の一つであり、一連の情報量(エントロピー)が定められ,可換な信号空間における情報伝送の効率を調べることを可能にしている。特に,チャネルの伝送効率の基準を与える可換系のチャネル符号化の定理は、誤りの少ないチャネルを設計する上で重要な役割を果たしており、その定理の一般化の研究が,力学的エントロピーおよび平均相互エントロピーを用いて行われている。この符号化定理は量子情報理論の重要課題でありその解決が待望されている。量子系の力学的エントロピー理論の展開:通常の情報通信理論では,力学的エントロピー(KS(コロモゴロフ-シナイ) エントロピー)を用いて平均相互エントロピー(情報量)が定められ,それを基にして符号化の定理が一般化されている。このKSエントロピーを量子系に拡張しようとする試みは様々な研究者によって行われており,本研究代表者達は,AOWエントロピー,KOWエントロピー及び情報力学の複雑さの概念を用いて量子平均エントロピーと量子平均相互エントロピーの定式化を行い,これらの相互関係について研究を行った。本研究では,量子系のチャネル符号化の定理の証明をするための基礎付けを行うために,KOWエントロピーをベースに新たな一般化AOWエントロピーを導入する。さらに,量子エンタングルメントの状態変化を取り込んだ量子平均相互エントロピーの定式化を行い,その性質を調べた。 (1)エンタングルメント量子チャネル理論の定式化 本研究では,量子テレポーテーションなどのエンタングルメント量子チャネルの特徴付けを行い,以下の研究を行った。 (a)光雑音チャネルに対する合成状態の性質を調べた。 (b) 量子力学的エントロピーの定式化を基に,雑音光チャネルに対する一般化されたAOWエントロピーを求め量子符号化の定理の証明に必要な数理的基礎を構築する研究を行った。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究では,エンタングルメントチャネルと量子系の力学的エントロピー理論の研究を基に,量子符号化定理の完全な証明を与えることを最終目標とし,その定式化に必要となる数理的基礎をひとつひとつ積み上げていくことを目的とする。エンタングルメント量子チャネルの伝送効率について入出力系の間でエンタングルメントした2つの量子状態を用いた情報通信過程である量子テレポーテーションなどは,完全正値性を持つ量子チャネルで記述することができる。このチャネルに対する量子相互エントロピーは,量子相対エントロピーの単調性により,入力系の量子状態の持つ量子エントロピーの値を超えることはできないことが厳密に示されている。しかしながら,入力状態と出力状態のテンソル積で与えられる分離状態と,入出力間のエンタングルド状態とを量子相対エントロピーを用いて比べると,その値は,最大で,入力状態の持つ量子エントロピーの2倍の値を取ることが知られている。 本研究では,量子符号化の定理を証明する上で,このエンタングルメント性を有する量子チャネルの特徴を厳密に調べ,その定式化について研究を行う。 本年は,量子系の通信過程の情報伝達の効率を議論する上で,分離的な合成状態によって与えられるOhya相互のエントロピーが適当な尺度であることがわかった。エンタングルド合成状態と自明な合成状態に関する量子相対エントロピーの上限は、2つの量子状態のS-mixingエントロピーで与えられることがわかった。エンタングルド合成状態と分離的な合成状態の間にCPチャンネルが存在することがわかった。さらに,(a)光雑音チャネルに対する合成状態の性質を調べた。(b) 量子力学的エントロピーの定式化を基に,雑音光チャネルに対する一般化されたAOWエントロピーを求め量子符号化の定理の証明に必要な数理的基礎を構築する研究を行った。
|
今後の研究の推進方策 |
量子系の力学的エントロピー理論の展開 (a)部分代数系に対する量子系の力学的エントロピーの定式化 量子系の力学的エントロピーは,1975 年ごろ エムシュとコンヌ-ストルマーによって最初に導入され,1987 年には,コンヌ-ナーンフォッファ-チィリングがC*-系においてCNT力学的エントロピーを定義した。 パークは,いくつかのモデルについて,CNT力学的エントロピーを計算した。また,1994 年には,アリツキー-ファネスが単位の有限作用素分割を用いてAF力学的エントロピーを定め,ハデットは位相エントロピーに関連して力学的エントロピーを論じた。さらに,ボイキュレスクは,自由確率をもとに一般化された近似のアプローチをベースとしてC*-及びW*-代数の自己同型写像に対する力学的エントロピーを導入した。1997 年には,アカルディ-大矢-渡邉 が,量子マルコフ連鎖を通して,AOW力学的エントロピーを定義し,量子情報理論と関連するいくつかの量子チャネルのモデルに対して力学的エントロピーの計算を行っている。このAOW力学的エントロピーは,従来の手法を用いて定められた量子系の力学的エントロピー(CNT・AF)よりも系の状態を詳しく分類することができ,さらに力学的エントロピーを求める計算が他のものに比べて容易であるという特徴を持つ。コサコウスキー-大矢-渡邉は,AOWとAFを含むより一般的な系に対して完全正値写像に関するKOW力学的エントロピーを定式化した。KOW力学的エントロピーは,AOW力学的エントロピーに比べてより多くのモデルに対して適用することができる。 本研究では,これらの力学的エントロピーの関係を調べ,いつくかの数理モデルに対して力学的エントロピーの計算を行う予定である。
|
次年度使用額が生じた理由 |
エンタングルメント量子チャネルの伝送効率について入出力系の間でエンタングルメントした2つの量子状態を用いた情報通信過程である量子テレポーテーションなどは,完全正値性を持つ量子チャネルで記述することができる。このチャネルに対する量子相互エントロピーは,量子相対エントロピーの単調性により,入力系の量子状態の持つ量子エントロピーの値を超えることはできないことが厳密に示されている。本研究では,量子符号化の定理を証明する上で,このエンタングルメント性を有する量子チャネルの特徴を厳密に調べ,このようなエンタングルメント量子チャネルの定式化について研究を行う予定である。初年度の助成時期が,11月であったので,それまでの研究計画に伴う費用は,大学の研究費を使用した。
|
次年度使用額の使用計画 |
量子情報通信理論とは,シャノン等によって古典系で定式化されたエントロピー,相互エントロピーなどのいくつかの情報量を量子系に拡張し,シャノン理論を含むより一般的な情報理論へと大きく発展させたものである。量子系における符号化の定理は,量子情報通信理論の最も重要な課題のひとつである。 本研究の最終目標は,符号化の定理を証明するための基礎付けをすることである。そのために,量子確率論をベースとして,エンタングルメントの数理をもとに定められるエンタングルメント量子チャネル理論,量子エントロピー理論を拡張し,それらを相互に関連付けることが必要である。さらに,量子系の平均相互エントロピーの定式化には,エンタングルメント量子チャネルの研究を通して,量子系の力学的エントロピーの研究をさらに展開させる。 初年度の研究を元に,上記の目標に向けて順次研究計画を実施する。
|