研究課題/領域番号 |
15K04998
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研究機関 | 京都大学 |
研究代表者 |
宮寺 隆之 京都大学, 工学研究科, 准教授 (50339123)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | 量子論基礎 |
研究実績の概要 |
研究の目的は量子論における同時操作不可能性の背後に存在する数学的構造を明らかにすること、また同時操作不可能性から帰結される種々の原理的限界を調べることであった。これに関連し2017年度は計2本の論文の出版と2本のプレプリント投稿を行った。 Europhics Letters誌上で発表されたRelativity of quantum states and observables(量子状態と物理量の相対性)では、量子論と古典論の境界を外側に推し進め、reference frameをも量子的に取り扱うことを行い、簡単な群(U(1))の場合について、するどく局在したreference frame上の状態が重要な役割を果たすことを示した。 Foundations of Physics誌上で発表されたSymmetry, Reference Frames, and Relational Quantities in Quantum Mechanics(量子力学における対称性、参照枠、そして相対的量)においては、この議論を更に精緻化し、質的な議論にとどまらずさまざまな量的な限界式を与えることに成功した。また、coherence(干渉性)の概念自体も相対化を進めた結果として、新しい概念であるmutual coherence(相互干渉性)の導入も行った。この量が、どのような場合に既存のcoherenceと一致するか(しないか)についての議論も行った。また、本論文上では、超選択則のもとでの測定過程に関する既存の議論の混乱を整理し、モデルを通じて正確な議論を行った。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
学内において委員会活動があり時間は取られたが、それでも研究は順調に進展していると考えている。また当初予想していなかった量子熱力学の方向への展開が見られており、同時操作不可能性に軸足をおきながらさまざまな話題に応用を広げていく、可能性が見えてきている。
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今後の研究の推進方策 |
統一的な数理構造は(あるレベルにおいて)量子チャネルを扱うことにより得られることがこれまでの研究で明らかになった。この枠内において、一対ではなく3つ以上の量子操作(量子チャネル)の同時操作不可能性の議論を深めることは今後の大きな課題である。また、mother channelの構造定理がプレプリントにより得られたが、それでも数学的にはある条件を必要としていた。この条件を外すことを考えたい。また同時操作不可能性が本質的な役割を果たすreference frameの研究も更なる展開が考えられる。まず、GalileiあるいはPoincare群の部分群である時間並進群について考えたい。これはWheeler-de Witt方程式にあらわされるように、時間をあらわに含まない記述からどのように時間があらわれてくるかというproblem of timeの問題と密接に関係している。
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次年度使用額が生じた理由 |
前年度からの繰り越し分と合わせて、次年度使用額が生じている。当該年度も前年度と同様に学内委員の業務が忙しく、予定されていた出張ができなかった。次年度は、学内委員の負担がこれまでより少ないと思われる。前半に既に2回の海外出張を予定している。また、パソコンなどの購入、研究者の招へいも計画している。
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