研究実績の概要 |
平成30年度は、平成28~29年度に扱った、分布入力/境界入力に無駄時間要素を含む放物型分布定数系の安定化問題における制御対象を、ボルテラ型積分項を有する双曲型分布定数系に置き換え、境界入力に無駄時間要素が含まれる場合に対して、半群理論を用いてpredictor型の安定化制御器を導出した。その際に、元のシステムをターゲットシステムへ写すボルテラ・フレドホルム型積分変換が左可逆となるが、右可逆とはならないという性質を有することが明らかになった。さらに、数値シミュレーションを行い、predictor型の制御器が効果的に機能することを確認した。 つぎに、非局所境界条件に無駄時間を含む双曲型分布定数系に対するオブザーバ設計問題を扱った。このシステムは潜伏期間を有するKermack-McKendrickモデルと解釈できる。このシステムに含まれる無駄時間要素を輸送方程式を用いて等価的に表し、偏微分方程式のバックステッピング法により、オブザーバゲインが設計できることを示した。また、誤差システムの古典解が有限時間でゼロになることを特性曲線法を用いて示し、さらに半群理論を用いて誤差システムの軟解が同様に有限時間でゼロになることを示した。 研究期間全体を通じて「境界条件に無駄時間要素を含む放物型/双曲型分布定数系の安定化問題や状態推定問題」が主要なテーマであったが、早い段階で研究成果(H. Sano, 2016年)を得ることができた。その後、それを基にして関連する研究を同時に進めていくことができ、ポート・ハミルトニアン法を用いた、境界フィードバックループに無駄時間要素を含む向流型熱交換方程式の安定性解析や、無限次元フィードバック系に対する安定半径の近似問題など、研究成果(H. Sano, 2016; H. Sano, 2016; H. Sano, 2018)も得ることができた。
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