研究課題/領域番号 |
15K05002
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研究機関 | 九州大学 |
研究代表者 |
田上 大助 九州大学, マス・フォア・インダストリ研究所, 准教授 (40315122)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | 一般化粒子法 / 特性曲線法 / 移流拡散方程式 / 誤差評価 / 正則条件 |
研究実績の概要 |
粒子法は, 有限差分法や有限要素法などと異なり評価点の依存関係を定める格子や多面体分割を用意する必要がない. この特徴から粒子法は, 移動境界を持つ問題に対する数値計算手法の一つとして盛んに用いられている. 一方でメッシュが不要であるという粒子法の特徴は, 離散化パラメーターの自由度が増大する欠点を生む. このため, 領域内に配置する粒子の数と粗密, 選択する参照関数の滑らかさや影響半径の大きさ, 参照関数の結合に用いる粒子体積の大きさなど, 離散化パラメーターの選択を適切に行う必要がある. 研究代表者は昨年度までに, 従来用いられてきた手法を含んだある一般化粒子法を提案した上で, その打ち切り誤差評価に関した離散化パラメーターの選択に関する十分条件を導出することで, この問題を解決した. さらに導出した十分条件を元に, Poisson方程式, 熱方程式, および移流拡散方程式に対する一般化粒子法の誤差評価を導いた. 本年度は次の段階として, 誤差評価を導くことで数学的正当化がなされた移流拡散方程式に対する一般化粒子法を用いた数値実験を行った. 最初に前年度に引き続き, 数学的に示された誤差の収束次数を数値的に計算することで, 数値計算コードが正しく実装されているかを確認した. この際, 移流の卓越による困難さの影響を排除するために, 比較的小さなPechlet数での数値実験を最初に行った. ここで実装の正しさが確認された数値計算コードを用いて, 解析領域のやPechlet数が一般の場合に対する数値計算を実施した. これにより提案手法の有効性を広い枠組みで確認できた. 最後に本研究課題の, 一般化粒子法の次の段階において対象となる問題として考えられる, また重要となる, Navier--Stokes方程式への適用を見据えた数値解析および数値計算の準備を行った.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
前年度までに得られた移流拡散方程式に対する特性曲線一般化粒子法の誤差評価を基に, 数学的に正当化された数値計算手法による数値実験を行った. 粒子法の特徴は, 近似評価に用いる粒子を流体粒子として捉え, 流れ問題に現れる物質微分をLagrange的に直接近似することにある. しかしながらこの事実は, 時間の経過と共に粒子の偏在を招き, 近似制度の悪化, 数値振動の発生, 数値計算の破綻を引き起こすことが知られている. この問題を解決するために, 研究代表者は流れが卓越した問題に対する数値計算手法として知られている特性曲線法を時間に関して半陰的に導入した. これにより各時刻ステップにおいて研究実績の概要で述べた十分条件を満たすような粒子の配置を用いることが可能となり, 既に導いていた打ち切り誤差評価と放物型方程式に対する有限差分法の誤差評価を元に, 移流拡散方程式に対する特性曲線一般化粒子法の安定性評価および誤差評価を導くことが出来た. さらに創成解を用いた数値実験によって誤差の収束次数を数値的に求めることで, 比較的低いPechlet数の簡易モデルに対しては, 得られた数値解析結果を再現することが出来た. 今年度はこれらの結果に加えて提案手法の有用性を, 問題設定がより一般的な計算モデルや誤差評価における十分条件が成り立たないようなより広い枠組みでも確認するために, より一般の移流拡散方程式に対する数値実験や, メッシュ不要な粒子法の特徴を活かした移動境界を持つ問題の数値実験の準備を行った. また本研究課題の展開として考えられる, Navier--Stokes方程式に対する数値解析および数値計算に必要となるいくつかの準備も並行して行った. またこれらの成果を基に, 関連する国際会議等で成果発表を行った. 以上のような進捗状況から, 計画がおおむね順調に進展していると判断した.
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今後の研究の推進方策 |
今年度までに得られた成果を基に, 特性曲線一般化粒子法を用いた移流拡散方程式の数値実験を引き続き行う. その際, 提案する手法の実用性を高めることを目的に, 現実的な問題への適用を実施し, 計算効率などの観点からも提案している手法の有効性が主張できるかどうかを検証する. 特に実用性を考える上で重要な, 粒子の偏在が顕著な, あるいは移流速度, すなわちPechlet数が大きいような検証問題に対する数値実験を行い, 特性曲線一般化粒子法の有効性を検証する. この時, メッシュが不要であるという粒子法の特徴から盛んに適用される移動境界を持つ問題に対する提案手法の有効性も検証する. さらに次の段階として, Navier--Stokes方程式で記述される, 非圧縮粘性流れ問題に対する特性曲線一般化粒子法の適用を準備する. 具体的には, 流れ問題に対する粒子法の数値計算で広く持ちいられている時間方向の分数段近似を適用した際に現れる, 圧力Poisson方程式に対する粒子法の数値計算を数学的に正当化する. これを基に, 数学的に正当化が可能で, 粒子の偏在に対応可能な, 粒子の再配置の計算手法, あるいは再配置が不要な分数段近似手法の開発を試みる. 粒子法で行われる分数段近似手法では, 非圧縮Navier--Stokes方程式に対する粒子法の適用においても, 圧縮性Navier--Stokes方程式からの摂動として捉えた数値計算手法が用いられることも多い. そこで, これらの既存の時間積分手法に対応した新しい数値計算手法の構築も視野に入れる. またこれらの成果を基に, 粒子法に対する誤差評価を重要課題として取り上げ関心を持ち当該分野において世界的に広く認知された国際会議にて成果発表を行い, 研究代表者が得た成果の国際的な周知を図ると共に, 今後の研究計画策定に必要な情報収集などを行う.
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