本年度は,具体的に得られた研究成果は主として次の点が上げられる: (1)順序カテゴリ正方分割表において,モデルの適合度を評価する際に,適合度検定統計量(たとえば,尤度比カイ2乗統計量)が用いられる.複数の分割表データに対して対称モデルの当てはまりが悪いとき,非対称性の程度を比較することに関心がある.適合度検定統計量を用いて,複数の分割表データに対して非対称性の程度を比較する際,非対称性の方向性を区別できない,という問題点がある.Tomizawa et al.(2001)は対称性からの隔たりを測る尺度を提案したが,非対称性の方向性の区別はできない.一方,Tahata et al.(2010)は対称性からの隔たりを測る別な尺度を提案した.それは非対称性からの区別はできるが,尺度最小値は対称構造と同値とならない.そこで,本研究では,両方の尺度を同時に考えたベクトル型尺度を提案した.この尺度により,両者の問題点が解決された. (2)正方分割表において,点対称性の拡張モデルを提案し,点対称モデルの分解定理を導出した. (3)正方分割表において,周辺オッズを用いての周辺同等性からの隔たりを測る尺度の改良版を提案した. (4)正方分割表において,二重対称モデルの拡張モデルを提案し,二重対称モデルの分解定理を導出した. これらの研究成果は,従来の推定法,検定法,モデルの選択法などに加えて,モデルの提案,モデルの分解,尺度の提案などに基づく新しい分割表解析法を提案しており,本研究は大きな貢献をしていると言える.
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