研究課題/領域番号 |
15K05007
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研究機関 | 東邦大学 |
研究代表者 |
木村 泰紀 東邦大学, 理学部, 教授 (20313447)
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研究分担者 |
高阪 史明 東海大学, 理学部, 准教授 (20434003)
佐藤 健治 玉川大学, 工学部, 教授 (70307164)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | 解析学 / 非線形解析 / 凸解析 |
研究実績の概要 |
本研究の目的は、種々の関数空間において研究がなされている凸解析の理論を、完備測地距離空間において展開することである。とくに今年度は、関数空間上の凸関数に対して定義されるリゾルベントという概念を完備測地距離空間上に拡張することを主たる課題として設定した。 年度を通して課題に取り組んだ結果、曲率が正の上界をもつ完備測地距離空間上で定義された凸関数に対して、リゾルベントを定義することに成功した。この定義においては、摂動関数の設定が重要な鍵を握っており、本研究では適切な摂動関数を用いることで、リゾルベントが数学的に正しく定義できること、さらに摂動関数の性質によってリゾルベント自身も有効な性質を持つことが示された。とくに、従来のリゾルベントのもつ堅非拡大性という性質は、凸解析学と不動点理論を結びつける重要な概念であるが、この性質を曲率が正の上界をもつ完備測地距離空間上に適切に拡張する方法については知見が得られていなかった。本研究においてその具体的な方法が提案されたことは、重要な成果の一つである。また、リゾルベントの性質に付随する結果として、曲率が零を上界としてもつ完備測地距離空間や関数空間における誤差付不動点近似の結果も得られた。 堅非拡大性の拡張概念は、ヒルベルト空間上で定義された従来の写像の持つ性質を一般化したものであると同時に、曲率が正の上界をもつ完備測地距離空間がもつ距離の諸性質との関係において非常に都合のよい性質であることが容易に分かる。したがって、この性質に注目することで、従来関数空間上で展開されてきた近似理論、とくに凸関数における最小化問題に対する解の近似法に関する研究の応用の可能性が示唆される。今年度の研究成果においても近似理論への応用の研究は一部進められており、次年度以降の成果が期待される。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究の進捗が当初の予定通りに順調であることの第一の理由は、本研究におけるもっとも重要な知見の一つである「リゾルベントの存在および定義の数学的妥当性」が当初の予測を上回る順調さで発見に至ったことにある。研究の開始時点では、リゾルベントを定義する際に必要な摂動関数の選択についてあまり多くの情報がなく、候補となる関数を手当たり次第に探る試行錯誤の状態であったが、摂動関数がもつべき性質を改めて整理し、見直すことによって、候補となるものを絞りこむことに成功し、望まれる性質をもつ関数の発見に至った。リゾルベントの存在とその性質の有効性は、従来の凸解析においても重要な知見の一つであるが、同様の事実が曲率が正の上界をもつ完備測地距離空間でも成り立つことの発見は、本研究において取り扱う課題全体に大きな影響を及ぼし、今後の研究計画を左右する研究成果であった。この成果を研究初年度の早い時期に得られたことによって、以後の応用的研究に多くの時間を割くことができ、時間的に余裕のある計画を立てられるようになったと言える。 上記の成果の応用研究として、本年度後期に着手している近似理論については、写像や空間の性質を用いた計算が従来のものより煩雑なため、初年度終了時点では具体的な成果が得られていない。しかしながら、これは当初より予想していたことであり、次年度以降により精力的に取り組むことによって何らかの成果が得られることを期待している。
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今後の研究の推進方策 |
本研究の初年度に得られた成果であるリゾルベントの定義とその性質に関する知見を用いて、今後も当初の予定通り、その幾何学的性質についてさらに研究を深め、さらに凸解析に関連する種々の近似定理への応用を試みることで、本研究の研究課題である、完備測地距離空間上の凸解析の理論を構築することを目指していく。 まず、完備測地距離空間およびそこで定義されたリゾルベントの幾何学的性質については、リゾルベントの堅非拡大性に注目し、従来より定義されている、曲率が非正の完備測地距離空間上の凸関数に対するリゾルベントの性質と照らし合わせて研究を進める。これによって、リゾルベントのもつより本質的な性質の抽出が可能となり、空間の曲率に応じて連続的に変化する性質と、零を境に不連続に変化する性質を分類することが可能となり、本研究の課題である凸解析学の構築に大きな貢献をすることが予想される。 近似定理への応用については、まずはじめに検討すべき課題として挙げられるのが近接点法の確立である。これはリゾルベントを用いた近似手法として最も有名な方法の一つであり、本研究課題で提案したリゾルベントをこの手法に適用可能であるか否かを見出すことは、研究を進める方向としても自然な問題設定であるといえる。従来の近接点法には、不動点近似理論と関連の深い様々な形の一般化手法が存在するため、これらについても研究に取り入れる予定である。 また、初年度には時間を割いて検討を進めなかった課題として残されている、空間の可視化と計算機実験についても次年度以降に進めていくことを予定している。
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次年度使用額が生じた理由 |
欧米諸国の治安の悪化により、いくつかの国際会議への参加を見合わせたため。
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次年度使用額の使用計画 |
治安の問題が解決し次第、研究成果発表のための国際会議への参加を再検討する。状況が好転しない場合は国内での研究成果発表も検討する。
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