保険会社のリスク管理において,将来の損失に対する準備金の評価はソルベンシー問題として昨今の保険実務上の重要課題であると共に,近年の保険数理のアカデミズムにおいても重要な話題の一つである.従来のソルベンシー評価は,単年度損益を一つの確率変数としてその分布をモデル化し,バリュー・アット・リスクや期待ショートフォールなどのリスク尺度を用いてリスクの評価を行っていた.しかしながら,時々刻々と変わる資産過程に対するソルベンシーリスクは,保険資産の確率過程によるモデル化とその破産確率に基づいて評価するのが自然であり,与えられた時点における条件付き破産確率の汎関数として定式化されるべきものである. 本年の研究では,資産過程を連続時間型のマルコフ過程とし,そのプロセスの破産関連リスクに対する割引罰則関数を一定水準以下に抑えるような備金によってリスクを評価する新しいリスク尺度を定義し,それを資産過程がとるパス空間上におけるリスク尺度として数学的に正当化した.これを基に各破産リスクを経時的に評価する新しいダイナミックリスク尺度を構築が可能となった. この成果は,日本大学の田中周二教授との共同研究として,保険数理の国際誌に投稿中である.また,このGerber-Shiu関数の統計理論構築のため,資産モデルをある特定のジャンプ構造をもつレヴィ過程に限定し,離散観測に基づくノンパラメトリック推定量を提案.平均2乗の意味での統計的一致性とその収束率を明らかにした.この成果は,重慶大学のZhang博士との共同研究として投稿中である.さらに,より具体的な保険資産の負債評価として最低保証付き変額年金を考え,その一般形を確率過程の加法的汎関数として定式化し,死亡率と金融資産にリンクした保険商品の負債評価法とその誤差評価の統計的方法についても研究を行った.
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