研究課題/領域番号 |
15K05015
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研究機関 | 北海道大学 |
研究代表者 |
田中 今日子 北海道大学, 低温科学研究所, 特別研究員 (70377993)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | 宇宙ダスト / 核生成 / 分子動力学計算 |
研究実績の概要 |
宇宙ダスト微粒子の生成や進化を考える上で核生成過程は重要なプロセスであるが、最初にできる凝縮核がナノサイズより小さいため、その生成率を良く予言する一般的な理論がまだない。室内実験より得られた核生成率は、広く用いられてきた核生成の古典的理論が与える値よりも、数桁以上異なることが報告されており問題となっている。本研究では宇宙ダスト生成を考える際の根本となる理論を分子動力学計算などにより分子レベルで解明し、宇宙環境におけるさまざまな温度圧力場でも使える理論モデルの構築を目指す。本研究では超並列計算機を用いて水の核生成過程の大規模MD計算を行った。スイスのスーパーコンピュータを用いて、最大8千コアの並列計算を千時間以上かけて行い、最大400万分子で時間ステップは3億ステップという非常に大規模な分子動力学計算を実行することにより、従来よりも10万分の1という低い核生成率で進行する現象を再現し室内実験と同レベルに到達することに成功した。今回温度や圧力の広い範囲に対し得られた水蒸気からの凝縮核生成率は,古典的核生成理論から大きくずれるが,凝縮核の表面張力を補正した半現象論的モデルとはよく一致することが確認された。またこの新しい核生成理論モデルを観測ロケットを用いた微小重力下での鉄の核生成実験結果を用いて比較検討を行った。均質核生成が起きる温度と圧力を同時に測定するその場観測結果と核生成理論モデルを組み合わせることにより、宇宙ダスト生成過程を考える際に重要な鉄の付着確率などの物性値を推定した。核生成時において、鉄の付着確率は非常に小さいことが明らかになった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
研究実績の概要で述べた水の核生成過程の大規模MD計算の結果に関しては、学会や大学のプレスリリースでも発表され、また国際誌に掲載された。また得られた核生成理論モデルと観測ロケットを用いた微小重力下での鉄の核生成実験結果との比較検討においては、宇宙の主要物質である鉄の核生成時の付着確率の物性値を推定することができ、宇宙環境において鉄の均質核生成が非常に起こりにくいという結果が得られた。この内容は現在投稿論文を準備中である。以上より、概ね順調に進展している。
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今後の研究の推進方策 |
これまで精度の高い核生成理論モデルの構築を目指し希ガスや水に対して核生成の大規模分子動力学計算を行ってきたが、さらに相互作用ポテンシャルや環境パラメータを変化させた計算と詳細な解析を行い、ポテンシャルモデルの依存性や核生成モデルの検証を行う。また核生成実験と連携し宇宙ダストに関連するさまざまな物質の表面エネルギーや付着確率などの物性値を求める。得られた物性値と核生成モデルを用いて超新星爆発のガス放出時における宇宙ダスト生成過程について討する。
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次年度使用額が生じた理由 |
初年度に得られた研究成果の一部を論文としてまとめ投稿する予定であったが、核生成実験の新しい結果が得られたこと等により執筆作業が当初の計画より時間がかかっており、投稿料、英文校正、印刷費などに未使用額が生じた。
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次年度使用額の使用計画 |
投稿準備中の論文を次年度に投稿するため、その投稿料、英文校正、印刷費に使用する。
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