ダスト生成過程は宇宙の固体物質循環の出発点であり星間ダストの進化や惑星形成過程を考える上で重要である。近年の赤外天文観測や隕石の分析などにより、宇宙ダストは宇宙環境の中でアモルファス相(非晶質相)、結晶相、液相などの状態を取ることが明らかになっており、進化の中でさまざまな熱的プロセスを受けることを示す。宇宙環境でダストがどのような状態で生成し、進化するのかは相変化の初期に起こる核生成過程が鍵となる。これまで我々は精度の高い核生成理論モデルの構築を目指し気相からの凝縮核生成の分子動力学(MD)計算を行ってきた。本年度では特に宇宙の主要物質の凝縮と結晶化過程の検討を行った。並列計算用の汎用コードであるLAMMPS(Large-scale Atomic/Molecular Massively Parallel Simulator)を用いて気相からの凝縮核生成および結晶化のMD計算を行った。MD計算を温度、圧力、系の大きさのなどの広い範囲で行い、非晶質相から結晶相への相変化を詳細に調べた。これにより結晶核発生時間(核生成率)や結晶核成長率を求めた。これらの研究によりはじめにできる臨界核は非常に小さく液相である可能性が高いことが分かった。凝縮物が急冷して固化しアモルファス相になるか結晶化するかは冷却条件により決まると考えられる。このような多段階核生成は宇宙で普遍的に起きる可能性があり、固相が安定な低温環境においても、凝縮時にはまず液相ができ、その後結晶化するという多段階核生成を経ることが考えられる。この現象はいくつかの実験でも確かめられており、実験と理論との比較検討も行った。これらの研究は宇宙ダストに普遍的に存在するアモルファス相の起源やさまざまな宇宙環境での結晶化の条件を考える上での重要な鍵になると考えられる。
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