研究課題
連星への3次元ガス降着を数値シミュレーションするため、連携研究者である法政大学の松本倫明教授が開発した計算コード SFUMATOを新規に購入したワークステーションに導入し、学生とともに試験計算を始めた。SFUMATOは解適合格子法を採用しているので、主星や伴星の星周円盤と連星系全体を同時に取り扱うことができる。また並列計算機で動作するので、スーパーコンピュータを使えば高い解像度で計算が可能である。シミュレーションでは連星と共に回転する座標系を用い、移流による星周円盤の構造変化を最小限に抑えた。この計算結果を吟味したところ、降着するガスの角運動量が明らかに異常な値を示す領域が見つかった。この異常は慣性系に座標変化しないと見つからないので、従来のシミュレーションで見過ごされてきた可能性がある。また今回は解像度が低かったため、異常が大きく目立ったことも見つられた要因である。この異常は密度が大きく変化する場所に現れやすく、コリオリの力の評価が原因と特定できるところまで突き止めた。本研究の主要課題である、衝撃波面での体積粘性の効果については2次元コードでテスト計算を行った。ただし今回の計算では解像度が不足するため有意な差を見出すことはできなかった。数値シミュレーションとは独立に、香港大学のJ. Lim准教授を中心とする研究グループに加わり、電波干渉系VLAのデータから若い連星系 L1551 IRS 5の軌道要素に制限をつけた。L1551 IRS 5の軌道面と各星の星周円盤面はほぼ揃っていることが確認できた。この成果については学術論文にまとめ投稿し、好意的な評価を受けた。また同じ研究グループの高桑繁久教授(鹿児島大)とともにもう一つの連星系について観測計画を議論した。
2: おおむね順調に進展している
実績の項で述べた様に従来の数値シミュレーション手法では不自然な角運動量分布が発生したため、天文学的に価値のあるシミュレーションは実施できていない。しかし本研究の主題であるガス降着は本質的に角運動量輸送の問題で、シミュレーションと観測の乖離を探ることが課題なので、従来の計算法の問題点がひとつ明らかになったことは有意義な進歩である。隣り合う数値セルで圧力差が大きくなるとこの異常が目立つ。この異常が顕著となった要因のひとつはガス円盤と周囲の密度比を千倍以上に高めたからである。衝撃波面では圧力が急激に変化するため、同様の異常がこれまでの計算にも有意に発生していた可能性がある。ワークステーションに計算コードSFUMATOを移植したので、研究室内で学生が簡単な数値実験をできるようになった。またシミュレ-ション結果を解析するソフトウェアも準備が進んだ。数値シミュレーション研究のほかに複数の観測研究者との共同研究も進んだ。実績の項で述べたL1551 IRS5 の他に連星系や動的に降着するガス流を伴う原始星を電波干渉計ALMAで観測する複数の提案に共同研究者として加わった。まだ発表できる段階ではないが、一部の天体については観測データも得られている。また既存の観測データも含め、分子輝線観測により得られたガスの流れを理論的に解釈する形で共同研究に寄与している。数値シミュレーションでは予想しない結果が得られたが、進捗状況は概ね順調である。
実績の項で述べた様に回転系でのシミュレーションでは角運動量分布に異常が発生することが明らかになったので、平成28年度前半はこの対策を考慮する。この問題が深刻になるのは圧力変化が大きい周連星円盤の内縁や衝撃波面である。原因はほぼ同定できたので、(1) コリオリ力の評価法を変える、(2)慣性系での計算に切り替える、の大きく分けて2通りの解決策を探している。慣性系の利用については連携研究者の松本教授に担当していただいているので、千葉大学ではコリオリ力の評価法について調査する。コリオリ力をどのように評価するか色々な方法が考えられるので、系統的に調べ結果を比較する。回転系での数値シミュレーションは他の分野にも応用可能なので、テクニカルレポートの形でまとめる。また協力者の大学院生をPIとして国立天文台のスーパーコンピュータに利用申請し、高解像度の計算シミュレーションを行う。観測との比較検討のため、光学観測が進んでいる近接連星V4046の軌道要素を考えて計算を行う。また数値粘性の差分法についても、現在採用しているものより良さそうな方式を思いついたので、これらについて2次元のテスト計算で性能を調査する。さらに加熱や冷却の効果についても計算方式の検討や試験計算を始める。これまで簡単のために等温ガス近似を使用してきたが、星に近いほど温度が高い効果を入れる必要がある。平成28年度は近似的な形で取り入れる方式について検討を行う。平成28年4月に締め切られるプロポーザルの他にすでに採択されたものがあるので、平成28年度も連星系や原始惑星系円盤のALMAでの撮像結果が得られると期待できる。観測結果の理解に理論面から協力するとともに、シミュレーション課題の設定に役立てる。
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