研究課題/領域番号 |
15K05017
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研究機関 | 千葉大学 |
研究代表者 |
花輪 知幸 千葉大学, 先進科学センター, 教授 (50172953)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | 連星 / 数値シミュレーション / 衝撃波 / 原始惑星系円盤 |
研究実績の概要 |
昨年度に引き続き、連星とともに回転する座標系での流体力学を扱う数値シミュレーションコードを開発した。特に昨年度見つかった、回転系での偽の角運動量変化の原因を追求し、対策を立てた。偽の角運動量変化が発生するのは、強い衝撃波が発生する場合で、波面前後での圧力変化が大きいほど深刻な数値誤差が生じる。原因は圧力変化により強い流れが生じる場合、数値格子の中心で評価した速度と数値格子の境界を流れるガスの量が大きく異なる。コリオリの力は速度に比例するが、これをどちらの量を基準に見積もるかで大きな差異が生まれる。試行錯誤の結果、コリオリの力の半分を数値格子の境界を流れるガスの量(数値流束)で評価し、残り半分を数値格子の中心での速度で評価すると、角運動量の計算精度が格段に向上することを見出した。この方法で大幅な改善が見られるのは、慣性系での運動量変化が保存形で書き表されるためである。この対策は、原始惑星系円盤などのシミュレーションにも適用可能でそれ自体として価値がある。また本課題の本来の目的である衝撃波面で働く数値粘性も、並列計算可能な数値シミュレーションコードSFUMATOに組み込んだ。まだ科学的成果を得るシミュレーションは実施できていないが、必要な数値シミュレーションコードは整えられた。 これらと並行し、共同研究者と共に電波観測により周連星円盤や原始惑星系円盤の構造について調べた。若い連星 L1551 IRS5では主星と伴星に付随する原始惑星円盤だけでなく、連星周囲の円盤もお互いに平行であることを見出した。また別の連星 L1551 NEでは、周連星円盤に腕状の構造が見られること、またその構造は数値シミュレーションで予想されるものと一致することを見出した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
平成27年度見つかった技術的な問題により、数値シミュレーションの実行が遅れている。しかし平成28年度の努力により、原因が特定されるとともに、有効な対策を立てることができた。発見された問題は回転系でのシミュレーション全般に共通なもので、見つかった対策は他の研究へも適用が期待できる。当初の目的から見ると障害と遅延であるが、予期せぬ成果と捉えることができる。また当初の目的であるシミュレーションの準備も整ったので、当初予定より遅れているが、期間内に十分な成果を得られると見込まれる。
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今後の研究の推進方策 |
回転系に現れるコリオリ力の取り扱いは原始惑星系円盤など、他の回転系でのシミュレーションにも役立てられるので、技術的な部分についても学会で発表するなど成果の公表を考える。またシミュレーションコードの準備が進んだので、当初予定していた連星系へのガス降着の計算を行う。またこれと並行して 若い原始星IRAS 04368+2557のモデルとなる数値シミュレーションも実施する。この原始星で遠心力と重力が釣り合う半径より内側まで落下ガスが入り込んでいるという観測結果が得られている。従来、ガスの落下は遠心力と重力が釣り合う半径で一旦停止すると考えられてきたが、この原始星はそのような考えの妥当性へ疑問符を投げかける。同様の状況が連星系でも発生している可能性を考え、数値シミュレーションを実施する。平成28年度に行った予備的な2次元シミュレーションによれば、降着するガスがすでに存在するガス円盤より厚み方向に広がっている時に、期待されるような流れが生じる。観測では衝撃波により加熱されたと解釈可能な構造が生まれているので、降着したガスの運動エネルギーの一部が熱エネルギーに変換される機構についても数値シミュレーションにより調査する予定である。
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