研究課題/領域番号 |
15K05025
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研究機関 | 大阪府立大学 |
研究代表者 |
小川 英夫 大阪府立大学, 理学(系)研究科(研究院), 教授 (20022717)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | 電波 / 天文学 / ヘテロダイン受信機 / 導波管回路 / 広帯域 / OMT / 周波数フィルタ |
研究実績の概要 |
ALMA をはじめとした大型電波望遠鏡での観測により、従来より良く観測されてきた CO 分子以外の多くの微量分子もまた(巨大)分子雲の全域にわたる大きなスケールで分布している可能性が指摘され始めている。これを明らかにするためには、多種多様な輝線スペクトルを非常に広い観測領域にて、非常に広い観測周波数で、そして非常に高い感度で観測する必要がある。 我々は、このような現状に対して、観測可能な周波数帯域幅を拡張した次世代広帯域受信機の開発を進めている。特に、天体からの信号を検波器まで伝送する導波路としてこれまで用いられてきた偏波分離器、方向結合性分配器などの導波管回路は従来比帯域 20-30% 程度とされてきたが、これらについてそれぞれ 50 % を超える広帯域化に取り組んできた。さらに、特定の観測周波数帯域を高精度で取り出し受信機に伝送するための周波数分配器の開発についても取り組んできた。 これまでの研究成果により、直交偏波分離機 OMT については帯域幅を制限していた原因の一つを解消することで、比帯域 50% を超える新たなモデルを設計することができた。 また、この新規モデルを 67-116 GHz, 280-500 GHz のそれぞれに適用して試作を行い、その周波数特性を実測した結果、67-116 GHz については非常に良好な結果が得られ、現在開発中の ALMA Band 2+(3) 受信機に採用が検討されるに至ったが、280-500 GHz については特に測定器との接続に課題が残る結果であった。また、これと並行して本年度では周波数フィルタの通過/反射帯域をそれぞれ独立して出力できる周波数分配器の開発をすすめ、100 GHz 帯において両円偏波・サイドバンド分離受信を一つで実現できる統合型導波管回路の開発に成功した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
昨年度、 ALMA Band 2+3 ( 67-116 GHz, 53.5% ) 帯域をカバー出来る新たな直交偏波分離器 (OMT) の設計開発を行い、その結果として反射損失 -20dB のスペックで 66-118 GHz, 比帯域 56% のモデル設計・試作を達成した。本モデルはスケールモデルの作成が可能であり、構造の簡易化を念頭においた設計であったため、本年度ではこれを 280-500 GHz にスケールダウンしたモデルを設計開発した。
試作した 280-500 GHz OMT の特性を 280-330 GHz の範囲で実測した結果、通過損失 -1.0dB 程度、反射特性 -15dB 以下とそれぞれ実用範囲内であったが、偏波分離精度は設計値 -40dB から大きく劣化した -10 ~ -20 dB であった。また、各特性には周期的特性が見られ、これがどの測定結果でも確認できることから、これが測定機器、特に測定器と OMT 間の変換導波管の接続不良による問題であると考えており、この対策手法を現在検討中である。
一方で、周波数分配器の開発に当たっては、単体の開発が従来成果により十分達成されたため、本研究ではさらに一歩進んで、必要となる導波管コンポーネントの更なる統合に取り組んだ。本年度の成果としては 109-117 GHz を高精度で分離する周波数分配器 2 つと両円偏波分離器、LO 信号カプラ 2 つ、SIS-Mixer への整合器 2 つを統合した回路の設計開発に成功した。
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今後の研究の推進方策 |
280-500 GHz OMT の試作により判明した諸問題についての解決策検討・実施、および製作精度向上のための手法検討について取り組む。特に、変換導波管との接続問題については、今後の高周波数帯域への応用に対して常に問題となるため、本研究にて十分検討しておくことが望ましいと考えている。
また、109-117 GHz 統合回路の天文観測実用試験についても府大 1.85m 望遠鏡、名古屋大学 NANTEN2 望遠鏡などに搭載して進めていく計画を立てている。
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