本研究の目的は、r過程元素の中性子星合体起源説の全貌解明を、銀河進化の理論考察と観測からの知見に、超新星を含めた元素合成計算結果を融合させ、それを実現することである。そのために当該年度においては、前年度に引き続き、矮小銀河の低金属量星に焦点を充てた高分散のr過程元素組成に関する「すばる観測」をPIとして遂行し、その結果を論文化し(ApJ Letters受理)、以下に述べる新たな理論的な知見が得られたことが最大の実績である。
矮小銀河Dracoの12個の星についてr過程元素の測定を実行したところ、これらの星がr過程元素組成が高いグループと低いグループの2者にはっきりと分かれることを発見した。これは、r過程元素合成イベントが超新星のように常に起きる現象ではなく、中性子星合体のような散発的でかつ稀に起きる現象であることを突き止めたことに対応する。また、r過程元素組成が高いグループを作り出すのに必要なr過程元素合成量が、中性子星合体の放出から期待される量に合致することも明らかにした。さらに、r過程元素組成が低いグループを作り出したr過程イベントでは、合成量が桁で小さい現象であることが示唆されることから、中性子星合体でのr過程元素合成量には多様性が存在する可能性にも言及することができた。
以上のように、すばる観測を通して、矮小銀河の星の化学組成の中に、r過程元素の起源が中性子星合体であるという極めて有力な証拠を掴むことができた。
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