研究課題/領域番号 |
15K05034
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研究機関 | 国立天文台 |
研究代表者 |
櫻井 隆 国立天文台, 太陽観測科学プロジェクト, 名誉教授 (40114491)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | 太陽 / 磁場 / 黒点 / 磁気ヘリシティ / 太陽活動サイクル / ダイナモ機構 |
研究実績の概要 |
本研究課題では、太陽の磁気活動(黒点の生成や、フレア爆発、高温コロナの加熱、太陽風の加速)を駆動する、磁場生成のメカニズム(ダイナモ機構)の謎に迫るため、(1)スペクトル線の偏光観測のデータから太陽表面の磁場を導出する手法の精度改良と高速化、および(2)得られた磁場データの解析(特に、磁場のよじれ「ヘリシティ」に注目する)から太陽内部における磁場生成機構の鍵を得る、の2点を主たる目標としている。 (1)については、昨年度に導入した解析環境(Linuxワークステーションとグラフィック・プロセッサ・ユニット)を用いてデータ解析手法の開発を進めた。データ源である、国立天文台・三鷹の赤外スペクトロポラリメータについて、分光器内の迷光(スペクトルの背景光となる)が予想外に高いことがわかり、その原因究明と回避策に時間がかかったが、手法は開発を終わり論文化を進めている。 (2)については、ひので衛星の可視光望遠鏡を用いた磁気ヘリシティの解析結果をすでに2015年2月に出版したが、その後、複数のスキャンを組み合わせて広い領域の磁気ヘリシティ分布を得る「モザイク観測」をひので衛星に提案し何度か実施されたので、その初期解析結果を2016年9月のひので国際会議(名古屋大学)で発表した。また、国立天文台と、中国科学院北京天文台が運用する類似の磁場観測装置とのデータの相互比較と差異の原因を考察した論文がSolar Physics誌に掲載された。 太陽の周期活動の長期変動を研究する上で重要なデータである黒点相対数が、その決定責任機関であるベルギー王立天文台によって2015年に大幅改訂されたことを受け、その正当性を確認する意味で、国立天文台(およびその前身である東京大学東京天文台)の1930年代からのデータとの比較を行い、2017年3月の日本天文学会春季年会において発表した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
偏光観測データから磁場を導出する手法の開発は若干遅れがあり、28年度中には大量データの処理にまでは至らなかった。 一方、既存の磁場データを利用した研究では、ひので衛星の磁場観測装置について、複数のスキャンを組み合わせて広い領域の磁気ヘリシティ分布を得る「モザイク観測」を提案し何度か実施されたので、その初期解析結果を2016年9月のひので国際会議(名古屋大学)で発表した。また、国立天文台と、中国科学院北京天文台が運用する類似の磁場観測装置とのデータの相互比較と差異の原因を考察した論文がSolar Physics誌に掲載された。 太陽の周期活動の長期変動を研究する上で重要なデータである黒点相対数の再検討を、国立天文台(およびその前身である東京大学東京天文台)の1930年代からのデータについて行い、2017年3月の日本天文学会春季年会において発表した。 以上をまとめて、計画より若干遅れた部分は、平行して行った研究で論文出版、学会講演ができたことから、総合して(2)おおむね順調、と自己評価した。
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今後の研究の推進方策 |
調書に記載した予定よりやや遅れたが、平成29年度には、国立天文台で現在運用中の磁場観測装置(赤外スペクトロポラリメータ)から得られる太陽全面にわたる偏光データを大量に処理し、黒点周辺だけでなくもっと大規模な領域が示す磁気ヘリシティを導出する。大きさの異なる構造間でのヘリシティの差やその出入りの収支から、ヘリシティの起源と散逸過程について研究する。 研究成果の発表は一部平成28年度に行ったが、最終的には平成29年度に、本課題と関連する研究を進めている海外の研究者を訪問して意見交換の機会を持つこととする。
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次年度使用額が生じた理由 |
平成28年度中に予定していた、海外の研究所における成果発表と議論については、データ解析の進捗状況を鑑みて平成29年度に延ばすこととした。一方、黒点相対数の長期変動などを調査するためにデータ入力作業が必要となり、謝金を支出したため、差額として8万円程度が次年度繰り越しとなった。
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次年度使用額の使用計画 |
平成28年度中に予定していた海外出張を29年度に実施する。具体的には、研究成果発表と議論を行うため、秋にドイツのマックスプランク太陽系科学研究所を訪問する。
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