研究課題
近傍宇宙にある爆発的星形成銀河の観測を行い、新しい星形成指標を用いて星形成則を探ることが本研究の主目的である。平成28年度は、天体観測データの処理・解析手法の改良と結果の公表を中心とした研究活動を行った。アルマ望遠鏡による爆発的星形成銀河の新しい観測が平成28年半ばに実施され、品質チェック済みの観測データが当年度後半にアルマ東アジア地域センターから配布された。配布された観測データに対してより適切な較正処理を改めて施し、本研究の目的に適う高品質な天体画像を得た。画像解析の結果、水素再結合線の検出に成功し、水素再結合線が新しい星形成指標として利用可能であることを実証できた。これは、本研究の重要なマイルストーンを達成できたことを意味している。水素再結合線データから実際に星形成率を導出したのみならず、データ中に含まれる分子輝線スペクトルを解析することで、爆発的星形成銀河の中心は一様ではなく、大きく異なる物理的性質と化学組成を持つ複数の星形成領域を含み、多様性に富んでいることが明らかになった。前年度および当年度中に得られたこれらの成果は、国内学会(日本天文学会秋季年会)および国際研究集会("Half a Decade of ALMA", 2016年9月、米国)において発表した。これらの結果をまとめた最初の論文を現在英文専門雑誌に投稿して査読を受けており、次年度中には出版される見込みである。さらに国内研究者との間で、爆発的星形成のみならず、活動銀河中心核を持つ銀河が放射する水素再結合線の観測について共同研究も進めている。最初の研究成果は査読論文として当年度中に出版された(Izumi, Nakanishi他, 2016)。
2: おおむね順調に進展している
研究第二年度は、アルマ望遠鏡による観測データの処理を引き続き行い、データ処理および解析の手法を確立すると共に、順次結果の公表を行うことが当初計画であった。実際には、観測データ処理および解析手法を改善し、天体画像の取得に成功した。また、天体からの信号を予想どおりに検出し、本研究の成立性が確かめられたことは重要な達成である。第二年度の途中までに得られた成果は既に国内外の学会・研究会において報告しており、査読論文も現在投稿中であること、さらに共同研究の成果の一部が査読論文として出版されたことは、本研究の進捗が概ね順調であることを示すものである。
研究の第三年度(平成29年度)には、第一・二年度に取得した観測データの処理・解析を引き続き行う。データの処理手法を完成させると共に、成果のさらなる公表と出版を目指す。データの較正処理が完了し天体画像が得られれば、解析作業と詳細な解釈に移行する。天体画像から大質量星形成率と高密度分子ガスの正確な分布と量を取得し、星形成則の正確な推定、他の銀河との比較など、研究の主要部分に関わる作業を進める。第二年度の成果として、銀河の中心領域は多様な個性をもった星形成領域が分布していることが明らかになった。この星形成領域ごとの個性が、星形成活動度や星形成則に与える影響についてもさらに考察を深める。これらの成果は国内学会・国際研究集会等で発表すると共に、論文誌に査読論文として公表する。新たに配布される予定のデータの解析実行のために計算機資源を増強する。この他、研究の成果を公表するための論文出版費、国内外の研究集会において成果発表を行うための旅費にも研究費を使用する予定である。
当初予定していた国外研究者(英国)と共同で開催するワークショップを双方の都合により延期し外国旅費支出が無くなったため、当該年度使用額に余剰が生じた。
平成29年度中に予定している、国外研究者(英国)と共同で開催するワークショップおよび研究打合せのための旅費に充当する。
すべて 2016
すべて 雑誌論文 (1件) (うち査読あり 1件、 謝辞記載あり 1件) 学会発表 (5件) (うち国際学会 2件)
Monthly Notices of the Royal Astronomical Society
巻: 459 ページ: 3629, 3634
http://dx.doi.org/10.1093/mnras/stw324