研究課題/領域番号 |
15K05036
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研究機関 | 国立天文台 |
研究代表者 |
大須賀 健 国立天文台, 理論研究部, 助教 (90386508)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | ブラックホール / ジェット / アウトフロー / 数値シミュレーション |
研究実績の概要 |
ブラックホール(BH)周辺には、降着円盤やジェットだけでなく、幅広い速度、密度、電離パラメータを持つ多様な円盤風、多数のガス雲が存在することが近年の観測でわかってきた。この事実は、ジェットや円盤風といった噴出流の発生メカニズム、発生場所、噴出方向や速度が多岐にわたることを示唆している。そこで、降着円盤と同時に円盤風やジェットをターゲットとした大局的な流体シミュレーションを実施した。 相対論効果を組み込んだ輻射磁気流体シミュレーションでは、輻射力ががジェットを加速する一方、輻射抵抗が速度上昇を抑制するため、最終的に光速の40%程度のジェットが噴出することがわかった。また、回転ブラックホールの方が、無回転ブラックホールよりも強力なガス噴出流を生成することもわかった。ブラックホールの回転は、周囲のガスの加熱にも寄与することがわかった。これは未解明である硬X線の起源を解明する手がかりである。 また、回転軸方向に絞られたジェットだけでなく、四方八方に円盤風が噴出することを示すことに成功した。この円盤風は徐々に加速されてブラックホールから数千倍のシュヴァルツシルト半径離れた領域でようやく脱出速度を超える。この円盤風のエネルギーは、X線のエネルギーに匹敵するほど大きくなり、超光度X線源を取り囲むように分布しているガス雲を見事に説明できることがわかった。 金属のライン吸収によって加速される円盤風のシミュレーションも行い、活動銀河中心核に適用した。その結果、幅広いブラックホール質量およびエディントン比でライン吸収加速が重要であることを示すことができた。このモデルはUltra Fast Outflowと呼ばれる高速円盤風を大筋で説明することに成功した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
研究の大きな柱であった相対論的輻射磁気流体力学シミュレーションコードの実用化に成功した。これにより、ブラックホールの回転をも考慮した円盤やジェット、円盤風の構造やダイナミクスを調べることができるようになった。まずこれ自体が大きな成果である。しかも、このコードはブラックホールの他に中性子星への適用も可能である。ブラックホールと中性子星の共通点や相違点を研究することは、高密度天体の物理の解明において重要である。既に中性子星周囲の円盤やジェットの研究を進めており、期間内に成果を出せることは間違いない。 また、計算ボックスを大幅に拡大したシミュレーションは、超高度X線源の観測的性質を再現することに成功したばかりか、Ultfa Soft Sourceと呼ばれる未解明の天体をも説明できる可能性がある。一種の天体の観測を説明しつつ、多種の天体も同じモデルで統一的に解明する可能性を示唆したもので、新たなパラダイムを提唱したことの意義は間違いなく大きい。 ライン吸収加速のシミュレーションも、先行研究を大幅に発展させたのはもちろんのこと、近年観測された新たな観測事実(光度と円盤風のパワーなどの関係)も自然に説明することに成功している。また、シミュレーションデータをもとに、その依存性も明確にした。 以上のように、重要な成果を上げつつもさらに研究を発展させることに成功したので、おおむね順調であると判断した。
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今後の研究の推進方策 |
今後の研究計画の一つは新たな輻射磁気流体コードの開発である。私のものも含めてこれまでのほぼすべてのシミュレーションは、輻射モーメント法に基づいて計算を行っている。しかし、これは一種の近似法であり、特に輻射場の非等方性が大きいときには正しい答えが得られる保証がない。観測機器の性能が格段に上昇している今日、観測と比較可能な精度を持つ理論計算法の開発は時代の要請である。今年度は特殊相対論バージョンの開発に成功したので、一般相対論への拡張を急ぐ計画である。 また、既に開発した輻射磁気流体シミュレーションコードを使って、ブラックホールのみならず中性子星周囲の円盤やジェットの研究を行う計画である。近年、ブラックホールであると広く信じられていた超高度X線源が、少なくとも一つは中性子星を持つことが明らかとなり、中性子星周りのガスのダイナミクスを解明しつつ、ブラックホールとの違いを明確にすることが急務となっている。この計画は既に進行している。中性子星はブラックホールと違って物質やエネルギーを吸い込むことがないため、降着ガスの重力エネルギーをより効率的に輻射やジェットのエネルギーに転換できる。このことをシミュレーションで示すことに成功しつつある。高速回転する中性子星や強磁場中性子星の場合についての研究を推進し、ブラックホールとの類似点・相違点を明確にしていく計画である。
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次年度使用額が生じた理由 |
京都大学の共同研究者との研究打ち合わせおよび共同作業を年度末に行う予定であった。目的はこれまで作成した数値シミュレーションコードのテストと、さらなる発展版の作成である。一般相対論シミュレーションのコードはまだまだ未知の部分が多く、テレビ会議やメールでの打ち合わせは困難であり、直接出向いて直に議論しつつ作業を進める必要があるのである。そのための旅費と一週間ほどの滞在費を使用する予定であったが、先方の都合により急遽延期となった。このために次年度使用額が生じた。これは中止ではなく、延期であり2016年度の早い時期に行う実施する予定である。
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次年度使用額の使用計画 |
一般相対論的輻射磁気流体シミュレーションコードの作成およびテストにまつわる研究打ち合わせおよび共同作業を年度末に行う予定であったが、これが先方の都合で延期となった。2016年度に延期になったものの、計画そのものの変更はなく、2016年度のの早い時期に実施する予定である。よって、そのための旅費および滞在費として使用する計画である。
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