研究課題/領域番号 |
15K05041
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研究機関 | 筑波大学 |
研究代表者 |
金谷 和至 筑波大学, 数理物質系, 教授 (80214443)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | 素粒子論 / 量子色力学 / 格子場の理論 / 計算物理学 / クォーク・グルオン・プラズマ / 有限温度 / 有限密度 / 相転移 |
研究実績の概要 |
本研究は、有限温度・有限密度QCD相構造とクォーク物質の熱力学的諸性質を、ウイルソン型クォークを用いた格子QCDシミュレーションにより導くことを目的としている。2016年度は、初年度に開発したプログラムを用いて、グラジエントフロー法に基づく鈴木法による状態方程式計算を、フルQCDで初めて実行した。最終的には現実のクォーク質量を目指しているが、第一段階の研究として、計算時間を抑えるために、sクォーク質量は現実の値に近いがu,dクォークは現実より重い場合を扱い、格子間隔が1つだけの固定格子間隔法による計算を実行した。格子化誤差の小さいNt>8で、従来の方法による結果を再現することを示した。さらに、同じ配位を用いて、グラジエントフロー法を用いたカイラル凝集と位相感受率の評価も行った。格子ではこれらの物理量に複雑なくりこみが要求されるが、鈴木法によりくりこまれた量を直接評価可能となる。我々は、カイラル感受率がクロスオーバー温度でピークを示すことをウイルソン型クォークとして初めて示した。位相感受率を評価し、アクシオン質量がインスタントン模型の予想と一致する温度依存性を持つことを示した。これはアクシオンが暗黒物質の候補となるかを判定する上で重要な情報となる。これらの結果は国際会議Lattice 2016等で発表し、論文を投稿した。 並行して、現実のクォーク質量での有限温度配位生成も進め、格子間隔を変えたシミュレーションに向けた試験研究を開始した。また、SU(3)ゲージ理論の潜熱を、1次相転移点直上における2相分離と再重み付け法を用いて評価した。非摂動的非等方係数による評価と鈴木法による評価を実行し、結果を比較した。また、Nf=2 QCDの臨界スケーリングとグラジエントフロー法によるベータ関数を組み合わせ、有限密度での臨界線の曲率を求めた。中間結果をLattice 2016等で報告した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
グラジエント・フロー法を用いたフルQCD状態方程式評価の第一段階を完了し、状態方程式の評価が動的クォークを含む場合でも精度良く遂行可能であることを示した上で、別の評価と一致する結果を得、さらに、カイラル対称性を陽に壊すウイルソン型格子クォークを使ってもカイラル凝集と位相感受率について有意な計算が可能であることを実証し、第1段階としては期待以上の成果を得た。次の段階に向けてのプログラム開発と準備研究も順調に進んでいる。並行して進めているスケーリングの研究がやや遅れ気味だが、潜熱の研究は概ね順調に進んでいる。
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今後の研究の推進方策 |
フルQCDにおけるグラジエント・フロー法を用いた熱力学研究の第2段階として、連続極限への外挿にむけて、格子間隔を変えたシミュレーションを実行する。並行して、クォーク質量を物理的な値に下げた研究も実行する。また、クォーク物質のより多くの性質を引き出すため、さらなる測定プログラムの組み込みを行っている。 有限温度QCDの相構造解明に向け、再重み付け法を用いた解析をさらに進めると同時に、現実のクォーク質量における有限温度配位生成を進め、T-積分法とグラジエント・フロー法による状態方程式の評価・比較や、再重み付け法を用いた研究に実行する。
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