研究課題/領域番号 |
15K05044
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研究機関 | 東京工業大学 |
研究代表者 |
今村 洋介 東京工業大学, 理学院, 准教授 (80323492)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | 超対称性 / 指数 / 超重力理論 / オービフォールド |
研究実績の概要 |
平成29年度は「オービフォールド上の超対称指数に関する研究」および「高次元の超重力理論の古典解に関する研究」を行った。 超対称指数は超対称性を持つ場の理論における物理量の1つであり、双対性など、強結合の物理を調べるための道具として広く用いられている。オービフォールド上の超対称指数は通常三次元球面上で定義される超対称指数の拡張である。空間を3次元球面から、より複雑な構造を持つオービフォールドに変更することで、理論のより詳細な情報を得ることが可能となる。3次元球面上の超対称指数はいくつもの方法で計算することができ、それらを相補的に用いることでさまざまな理論に対して計算することができるが、オービフォールドにおける対応物は部分的にしか知られていない。私は特に3次元球面上の超対称指数に対する赤外公式と呼ばれるものに注目し、そのオービフォールドへの拡張を与えた。今のところそれは非常に限られた理論でしか成り立たないため、今後より広いクラスの理論へ適用できるような改善が必要である。 もう1つの研究内容は超重力理論の古典解についてのものである。これは、近年提案されたN=3超対称理論の拡張を目的とした研究である。近年の場の理論の研究の重要な手段の一つは超重力理論の古典解を用いるものである。そのため、さまざまな古典解を構成することが必要となる。本研究では特に9次元、8次元、7次元の超重力理論に関して、その時空次元よりも二つ次元の低いブレーンを表すような古典解を構成した。今のところ、それらの解を場の理論の解析に応用することはできていないが、6次元、5次元で同様な解を構成できれば、その中にN=3理論をはじめとする新規な場の理論に対応する解が存在するのではないかと期待している。 以上の結果は既に論文として発表済みであるが、出版はH30になる予定である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
研究実績の概要にも記したように、昨年度までの研究で得られた結果は、十分に納得のいくものではない。 オービフォールド上の指数については、非常に限られた系(具体的にはハイパー多重項のみからなるN=2超対称理論)について正しい指数を与えるということしか確認できていない。 また、超重力理論の古典解についても、9,8,7次元の結果が得られたものの、それは以前から知られている10次元の場合の結果と非常に似通ったものであり、新規な場の理論を与えるような解は得られていない。本来の目的、すなわち4次元のN=3理論など、新規な理論を得るためにはより低次元の超重力理論について同様の解析を行う必要がある。 さらに、N=3理論についての別のアプローチとして、AdS/CFT対応を用いた解析を行うことを予定していたが、上記二つの解析に集中したために、いまだに手付かずの状態である。 以上のような理由から、研究はスムーズに進んでいるとは言いがたく、(3)の区分とした。
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今後の研究の推進方策 |
今年度は本研究課題の最終年度となるため、昨年度までの研究過程で解消できなかった問題点に何とかけりをつけるべく以下の3つの点に集中して研究を進める。 まず一つ目はN=3理論の指数の、AdS/CFTを用いた解析である。これまでの研究で、ランクが高い極限の指数は非常に簡単な方法で得ることができた。しかし、Nが有限である場合については、1/N補正に対する定性的な性質を与えたのみであり、具体的な指数を得るには至っていない。今年度はAdS空間上のDブレーン配位とその振動モードをフェルミオンの自由度まで含めて調べることにより、この問題を解決したい。この問題が解決できれば、同じ解析手法を用いた直接の応用として、他の次元、例えば6次元の超共形場の理論についても解析を行いたい。 二つ目はオービフォールド上の赤外公式に関する研究である。これについては、第一原理からの導出は困難であると考えられるため、まずは他の方法(超対称性を用いた局所化の方法)を用いることができる簡単な理論に対して、できるだけ多くの例で指数を計算し、その結果から何らかの法則性や一般的な公式を導くことを試みる。 三つ目は超重力理論の古典解についてである。昨年度、7次元以上の時空について、あるクラスの古典解を求めたが、それらは10次元のよく知られた古典解とよく似た構造を持つものであった。より低次元の解を調べることにより、10次元の解とは異なる構造を持つ、新規な解を構成することを目指す。
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次年度使用額が生じた理由 |
この分野において当初予想していなかった新たな進展(4次元におけるN=3超対称理論の具体的構成が他の研究者によってなされたことなど)があったことなどにより、研究すべき対称が広がったため、予定よりも時間を要していること、また、海外への出張が予定よりも少なかったことや、先方負担による出張などがあったことにより、当初予定していたよりも旅費の支出が少なかったことが理由である。H30年度もこれまで同様、旅費や謝金等に使用予定である。
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