研究課題/領域番号 |
15K05045
|
研究機関 | 新潟大学 |
研究代表者 |
谷本 盛光 新潟大学, 自然科学系, フェロー (90108366)
|
研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2018-03-31
|
キーワード | フレーバー対称性 / ニュートリノ質量行列 / 超対称性 / CP対称性の破れ / B中間子希少崩壊 / K中間子希少崩壊 |
研究実績の概要 |
フレーバー物理の背後にある理論を解明するため、クォークとレプトンのフレーバー構造の統一的理解をはかることが本研究の目的である。そのためルミノシティフロンティアであるLHCb実験やBelleの実験におけるB中間子のCP対称性の破れや希少崩壊の測定結果と、ニュートリノ振動の精密実験データに基づいて、フレーバー構造の現象論的検討を行った。その成果は以下の3項目にまとめられる。 1 超対称性が10TeV以上の高いエネルギースケールにある場合、B,K中間子のCP対称性の破れと希少崩壊への効果を精査した。その結果、B中間子への寄与は非常に小さいが、中性K中間子のCP対称性の破れであるεKに40%程度の超対称性粒子の寄与がありうることを示した。また中性子の電気的双極子能率への寄与も大きいことも示した。 2 フレーバーに非可換離散対称性であるS4を課し、ニュートリノのフレーバー混合を最小限のパラメータで導くモデルを構築した。そのモデルに基づきT2K実験など高精度のデータを取り入れ、CP対称性の破れを検討し、フレーバーの位相構造を予言した。将来この予言はニュートリノを放出しない二重データ崩壊でテストされる。 3 クォークの質量行列のフレーバー構造を明らかにするため、対称性によらずクォーク質量行列の余分なパラメータを切り落とす手法を確立することを試みた。「オッカムの剃刀」と呼ばれるこの手法が、クォークの質量行列に働いていることを示すため、アップクォークが対角化されている基底でダウンクォークの質量行列を6個の実パラメータと1個の位相パラメータで記述することに成功した。これによって小林・益川行列の観測値を説明するだけではなく、観測値間の相関を明らかにし、今後のBelle-IIの精密実験でテストが可能であることを示した。 これらの結果は、クォークとレプトンのフレーバー構造の統一的理解に重要な鍵を与える。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究は、フレーバー物理の背後にある理論を解明するため、クォークとレプトンのフレーバー構造の統一的理解をはかることを目的としている。そのためルミノシティフロンティアであるLHCb実験やBelleの実験におけるB中間子のCP対称性の破れや希少崩壊の測定結果を取り入れ、超対称性粒子のもつフレーバー構造が、低エネルギーの実験結果にどう現れるかを一定程度あきらかにすることが出来、当初の研究計画は順調に進んできた。また、フレーバー対称性に基づくニュートリノのフレーバー混合の研究が、最近のニュートリノ振動の精密実験データを取り入れることで進展した。とりわけT2K実験におけるCP対称性の破れのデータを用いこれまでの研究をさらに精密化することに成功した。さらに、あらたに、実験結果を説明するため「オッカムの剃刀」と言われる手法を導入し、クォークのフレーバー構造を見るための最低限のパラメータを決定した。このことによって、今後のクォークとレプトンのフレーバー構造の解明に見通しが良くなった。
|
今後の研究の推進方策 |
初年度において本研究は、当初計画通りクォークとレプトンのフレーバー構造の統一的理解に向かって進んでいる。今後は、あらたに日本のKOTO実験に着目し、中性KL中間子のπ0ννへの三体崩壊を超対称性粒子の効果を取り入れ精査する。この崩壊はCP対称性の破れがなければ生じないという希少崩壊である。この崩壊過程はフレーバーの物理に新たな情報を提供することは間違いない。次に、日本のT2K実験におけるCP対称性の破れのデータだけではなく米国のニュートリノ振動実験であるNOνA実験のデータが報告され始めた。それによってニュートリノ質量の階層性の情報がもたらされるようになった。この情報を活用して、フレーバー対称性に基づくニュートリノモデルの精密化を図る。また、「オッカムの剃刀」と言われる手法を導入し、クォークのフレーバー構造を見ることに成功したが、この手法をニュートリノに導入し、新たな視点からクォークとレプトンのフレーバー構造の解明を目指す。
|
次年度使用額が生じた理由 |
当初計画では予定されていなかった広島大学との共同研究が2016年度あらたに開始されることが決まったため、次年度以降、当初の予算に計上していなかったあらたな旅費の支出が見込まれることとなった。その対応のため2015年度の旅費の節約を行い、次年度使用額が生じた。
|
次年度使用額の使用計画 |
当初計画では予定されていなかった広島大学との共同研究が2016年度あらたに開始されるので、そのための旅費を今回生じた次年度使用額によって賄う計画である。
|