研究課題/領域番号 |
15K05045
|
研究機関 | 新潟大学 |
研究代表者 |
谷本 盛光 新潟大学, 自然科学系, フェロー (90108366)
|
研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2019-03-31
|
キーワード | フレーバー対称性 / CP対称性の破れ / クォークフレーバー混合 / ニュートリノフレーバー混合 / 宇宙のバリオン数生成 |
研究実績の概要 |
本研究は、ニュートリノ振動の精密実験結果に基づきフレーバー対称性の証拠を現象論的に明らかにするとともに、LHC実験とBell-Ⅱ実験に基づくB中間子のCP対称性の破れ等の研究を通して、クォークのフレーバー構造を解明することである。29年度では、フレーバー対称性を用いたminimal seesaw modelを提案し、CPを破るディラック位相の大きさを予言した。その設定は、まず重い右巻マヨラナニュートリノを二つだけ導入することによって未知パラメータの数を減らす。そして荷電レプトン質量行列の対角化ベースで、3x2のディラックニュートリノ質量行列にフレーバー対称性S4を課すことにより、行列要素間の関係を縛る。この対称性は、いわゆるフレーバーのtrimaximal混合を導く。さらに、minimal modelを求めるため、この設定のもとで質量行列要素に可能なゼロ一つをおく。それによって、未知パラメータ4個のモデルの構成に成功した。その予言は以下のようにまとめられる。 (1) このモデルはニュートリノの質量スペクトルは順階層型が好ましい。最も軽いニュートリノ質量はゼロである。 (2) ニュートリノのフレーバー混合角θ23はディラック位相δと強い相関を持ち、将来の実験でテストが可能である。とりわけ、現在の実験結果の1σ誤差のデータをインプットするとディラック位相δは±90°付近に予言される。この結果は、日本のT2K実験や米国のNova実験の最新結果と一致している。 (3) このモデルは位相パラメータが1個のみであるため、レプトジェ二シス機構を合わせ用いて、宇宙のバリオン非対称が議論できる。宇宙のバリオン非対称で測定されている正符号により、ディラック位相δの符号の予言が可能である。その予言はモデルの質量行列に現れるパラメータkで決まることが明らかになった。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
今年度は、フレーバー対称性を用いたminimal seesaw modelの構築に成功し、CPを破るディラック位相の大きさが予言できた。この予言は日本のT2K実験や米国のNova実験の最新結果と一致しており、優れたモデルと評価できる。しかも、このモデルでのCP対称性の破れは、レプトジェ二シス機構を用いることにより、宇宙の物質生成と直接結つくという特徴が判明した。これはモデルの予言力が高いことを示している。宇宙のバリオン生成とニュートリノ振動におけるCP対称性の破れでディラック位相との関係を解明することは、2000年当初より多くの研究者が挑戦してきたものであり、その成功は特筆すべきものである。したがって、本研究計画の目標のかなりな部分が達成されたと判断する。
|
今後の研究の推進方策 |
フレーバ対称性の研究は、最近のニュートリノ実験の精密化により新しい段階に来ている。とりわけCP対称性の破れでディラック位相が直接測定で決定できる可能性が高まっている。そのため研究をさらにグレードアップするため、研究期間を一年延長し、フレーバーの新しい可能性であるmodular対称性の専門家である北海道大学の小林達夫教授と共同研究を開始した。この対称性はストリング起源であり、フレーバー対称性をこれまでより大きい枠組みで扱うことが可能である。その現象論的研究は、世界レベルからみて、ニュートリノにおいてもクォークにおいてもまだ手付かずの状態であり、本研究で先駆的な結果を得ることが期待される。この研究の成功のため、広島大学など北海道大学以外の研究者にも応援を得ることとしている。
|
次年度使用額が生じた理由 |
最近の理論の国際的進展のなかでフレーバ対称性としてmodular対称性の可能性が高まってきた。そのため、この専門家である北海道大学の小林達夫教授と共同研究を29年秋から開始した。この対称性はストリング起源であり、フレーバー対称性をこれまでより大きい枠組みで扱うことが可能である。その現象論的研究は、世界レベルからみて、ニュートリノにおいてもクォークにおいてもまだ手付かずの状態であり、本研究では先駆的な結果を得ることが期待される。29年度末にこの研究計画は終了予定であったが、本研究をさらに発展させる絶好の機会であるので、研究の一年間延長を申請することにした。そのため29年度の後半はスカイプなどを可能な限り活用し、出張を抑えることにより研究旅費を大幅に節約し、次年度の研究費にまわすことにした。
|