本研究は、ニュートリノ振動の精密実験結果に基づきフレーバー対称性の証拠を現象論的に明らかにするとともに、LHC実験とBell-Ⅱ実験に基づくB中間子のCP対称性の破れ等の研究を通して、クォークのフレーバー構造を統一的に理解することである。フレーバ対称性の研究は、最近のニュートリノ実験の精密化により新しい段階に来ている。とりわけCP対称性の破れがT2K実験等で発見される可能性が高まっている。このような背景で、本研究を一年間延長して、フレーバーの新しい可能性であるmodular対称性の現象論的研究を行った。この対称性は超ひも理論から導かれたものであり、フレーバー対称性をこれまでより明確な枠組みで扱うことが可能となった。今年度の成果は以下のようにまとめられる。 (1) modular対称性から導かれるA4対称性をレプトンのフレーバーに適用し、それらの質量行列からレプトン混合を解析しCP対称性の破れであるDirac phaseの大きさを予言した。この予言はこれまでのモデルの予言と著しく異なっており、将来のニュートリノ精密実験でテスト可能である。modular対称性の典型的予言として国際的に引用され始めている。 (2) modular対称性から導かれるA4対称性をクォークの質量行列に適用したはじめての成果が得られた。質量の起源であるヒッグス場をA4の三重項とすることにより、質量、クォーク混合角、小林・益川位相を再現するモデルを構築した。 (3) A4のmodular対称性が破れ可換対称性が残る場合、レプトンにどのようなフレーバー構造があるかを検討した。ニュートリノと荷電レプトンにそれぞれZ2とZ3対称性が残る場合、フレーバーのTri-maximal混合が実現することが判明した。 (4) SU(5)とPat-Salam GUTを用いてレプトンとクォークのCP対称性の破れの大きさの関係を示した。
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