研究課題/領域番号 |
15K05047
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研究機関 | 名古屋大学 |
研究代表者 |
棚橋 誠治 名古屋大学, 理学(系)研究科(研究院), 教授 (00270398)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | 素粒子質量起源 / ユニタリティー / 電弱精密測定 / フレーバー精密測定 / コライダー物理 |
研究実績の概要 |
LHCにおけるATLAS実験グループが報告した、約2TeVの質量をもつダイボソンレゾナンスのアノマリーについて、W'粒子であるとの解釈に基づく研究を行った。その際、ユニタリティー和則を活用した。ユニタリティー和則は、質量をもつ縦波ゲージボソンを含む散乱の散乱振幅が摂動論的に記述されるとの要請に基づき、有質量ゲージボソンの各種結合定数の間に非自明な関係をつけるものである。今回の研究において、われわれは、ユニタリティー和則とカストディアル対称性を用いることで、WWZ', WZW', WWh, WW'h, ZZ'h 結合のあいだに模型によらない非自明な関係を得た。われわれはまた、W'を含む模型の一般的なパラメータ空間で、ATLAS実験の報告したアノマリーを説明できるかどうかを確かめた。この研究を行うにあたって具体的に使用した模型は、スリーサイト模型と呼ばれる模型であるが、これは、我々のグループが、以前、ヒッグスレス模型の枠組みで提案した模型であり、ヒッグス粒子による縦波Wボソン散乱振幅のユニタリティー回復の仕組みを見るのにふさわしい模型となっている。 ATLAS実験グループが報告した2TeVダイボソンレゾナンスの性質には、我々の調べたユニタリティー和則の結果との緊張関係があることがわかった。この緊張関係は、具体的には、もしそのような2TeVダイボソンレゾナンスが存在するのであれば、ユニタリティー和則による考察では、ヒッグス粒子を終状態に含む崩壊モードでも同様のアノマリーが存在する必要があるのに対し、そのようなヒッグスを含む崩壊モードでのアノマリーには、実験的に厳しい制限がすでにつけられていたことによる。 この研究により、2TeVのダイボソンレゾナンスが存在し、それがW'粒子であると解釈する立場では、125GeVヒッグス粒子が非標準模型的であることが示唆された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
数値計算・数式処理計算を安定的に行うための安価なLinux計算機システムは予定通り調達することができ、数値計算のために実際に使用されている。 本計画では、LHC実験の成果発表に基づいて、具体的な研究計画については柔軟に対応することになっていたが、実際、ATLAS実験グループが報告したダイボソンアノマリーについて、ユニタリティーを用いた模型によらない解析を行うことができ、その成果をレフェリーつき論文誌(Physical Review D誌)に、Phys.Rev. D92 (2015) 055016 として報告することができ、ユニタリティーを用いた我々の解析手法は後続の理論研究にインパクトを与えた。実際、この研究成果によって、本科研費代表者およびその共同研究者(大学院生を含む)は、各種の研究集会に招待され、発表を行った。 残念ながら、ダイボソンアノマリー自体は、その後のATLAS実験グループの解析により、その存在は現在疑問視されているが、ユニタリティーを用いた一般的な解析である本研究は、今後のW'粒子探索に影響を与えうるものである。 また、当初研究計画にあった、ヒッグス粒子を複数含む模型へのユニタリティーの議論の拡張や、暗黒物質を含む模型への拡張についても、論文発表自体はまだ行っていないものの、研究は前向きに進展している。このような理由により、本科研費研究は、おおむね順調に進展しているものと考えている。
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今後の研究の推進方策 |
当面は、Phys.Rev.D91 (2015) 034030 に発表したユニタリティーに関する我々の研究成果を、任意個数の荷電ヒッグス粒子やフェルミオンを含む模型に拡張する研究の完了および成果発表を目指す。この研究によって、非常に一般的な拡張ヒッグスセクターの枠組みにおいて、散乱振幅のユニタリティーが満たされる条件と電弱精密測定パラメータの1ループ有限性が保証される条件が明らかになり、LHC実験におけるヒッグス精密測定の結果や、拡張ヒッグス粒子探索の結果を背後模型の詳細によらずに有機的な連携をもって理解することが可能になる。この研究は、名古屋大大学院生の長井遼氏、京都大学の津村浩二氏との共同研究であるが、可能であれば、さらなる研究メンバーの拡大も目指す。 拡張ヒッグスセクターにダークマター候補粒子が含まれる場合の検討についても、ダークマター粒子が複合粒子である可能性を想定し、早期の論文発表を目指す。こちらについては、名古屋大大学院生の大川翔平氏、京都産業大学益川塾研究員の山中真人氏との共同での研究が現在進展している。
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次年度使用額が生じた理由 |
国際会議への参加旅費が先方負担に変更になったため。
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次年度使用額の使用計画 |
本研究に基づく成果報告を行うため、大学院生を各種学会に派遣するために使用する。
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