研究課題/領域番号 |
15K05047
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研究機関 | 名古屋大学 |
研究代表者 |
棚橋 誠治 名古屋大学, 理学研究科, 教授 (00270398)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | 素粒子質量起源 / ユニタリティー / 電弱精密測定 / 宇宙暗黒物質 |
研究実績の概要 |
拡張ヒッグスセクターに暗黒物質候補粒子が含まれる可能性について、暗黒物質粒子が新たな強結合ダイナミクスの結果生じた南部ゴールドストン粒子(ダークパイオン)であることを念頭においた残存量計算を行い、その結果を論文で報告した(名大大学院生の大川翔平氏、京産大益川塾博士研究員の山中真人氏との共著。Phys.Rev.D95, 023006, 2017)。この成果はまた、共同研究者の大川翔平氏によって、台湾や韓国で開かれた国際会議で発表されている。 前述の暗黒物質模型の枠組みでは、宇宙の熱史における暗黒物質粒子の対消滅過程において、直接標準模型粒子は生成されることがなく、いったん、暗黒物質粒子と多重項をくむメディエータ粒子が生成されることを示すことができる。これは、「隔離された暗黒物質」シナリオとして知られている暗黒物質シナリオに類似しているが、過去に行われた「隔離された暗黒物質」シナリオでの現象論的研究においては、メディエータ粒子の質量が暗黒物質粒子の質量よりも十分に小さい事が暗黙のうちに仮定されていた。これに対し、我々が考察したダークパイオンのシナリオでは、暗黒物質粒子とメディエータ粒子の質量がほぼ縮退しているため、過去に行われた「隔離された暗黒物質」シナリオにおける暗黒物質残存量計算の結果をそのまま適用することは不可能である。そのため、今回、我々は、暗黒物質粒子とメディエータ粒子がほぼ縮退した場合に、どのように暗黒物質残存量が計算できるかを中心課題に設定し、宇宙の熱史の数値計算と解析計算を行った。その結果は、驚くべきものであり、暗黒物質の量が2段階で減少するこれまで知られていない新たな振る舞いをすることを見出した。これは、現在行われている暗黒物質の直接探索実験や、間接探索実験の結果を解釈するうえで、インパクトを与える結果となった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
この科研費研究の初年度には、LHC ATLAS実験で報告されたダイボソンレゾナンスの可能性を理論的に解釈し、このようなシグナルがこれまでの実験結果と理論のユニタリティーの性質と無矛盾であるためには、ヒッグス精密測定の結果に無視できない影響が生じることを示した。ATLAS実験が2015年に報告したダイボソンレゾナンスは、その後、より統計が多く精度の高い実験の結果、統計上のゆらぎによるものであることがほぼ確定したが、このようなレゾナンスとヒッグス精密測定との間に、模型の詳細に依存しない関係が生じることを示したことは大きな成果であると考えられる。2年目には、ヒッグスと宇宙暗黒物質が関係している可能性を調べた。宇宙暗黒物質がいわゆるWIMPであることを仮定すると、その質量は弱い相互作用の典型的エネルギースケールとおおよそ同じであることがわかり、なんらかの形で宇宙暗黒物質とヒッグス結合定数の精密測定に非自明な相関が見出されるものと期待できるからである。我々のダークパイオン模型はそのひとつの例となっている。
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今後の研究の推進方策 |
ヒッグス相互作用のユニタリティーと電弱精密測定の結果との関係、エクストラヒッグス粒子の直接探索結果の制限との関係について、現在研究を進めている。これは、ヒッグス粒子に代表されるスカラー場の張るモジュライ空間の幾何学として理解することが可能であり、電弱精密測定の結果や、エクストラヒッグス直接探索からの制限、ヒッグス結合の精密測定の結果を、モジュライ空間の幾何学の言葉で統一的に理解する事が可能となる。 この研究と並行して、宇宙暗黒物質の研究を推進する予定である。これまでの多くの宇宙暗黒物質の模型での宇宙熱史計算では、暗黒物質粒子と標準模型粒子の温度が等しいと仮定されていたが、この仮定は多くの模型で成立せず、より一般的な枠組みでの熱史を理解することで、現在の宇宙での暗黒物質温度についての制限を得ることを目指す。
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次年度使用額が生じた理由 |
プレゼンテーション用のPCの購入を次年度に持ち越したため。手持ちのPCのOSをアップグレードし、ソフトウエアメンテナンス期間が延長になったため、研究遂行上の問題は生じなかった。
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次年度使用額の使用計画 |
PCおよびソフトウェアの購入に使用する。
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