研究課題/領域番号 |
15K05052
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研究機関 | 大阪大学 |
研究代表者 |
細谷 裕 大阪大学, 理学研究科, 招聘研究員 (50324744)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | 素粒子論 / 対称性の自発的破れ / 細谷機構 / 余剰次元 / ゲージヒッグス統合 / 大統一理論 |
研究実績の概要 |
ヒッグスボゾンはゲージ場の5次元目成分の一部であるとするゲージヒッグス統合理論に大きな進展があった。LHCやILCでの検証可能性を詳しく明らかにしたのが大きな成果である。 発見されたヒッグス粒子の背後に新しい物理が待ち受けているのか、鍵となるのはゲージ対称性の自発的破れのメカニズムである。標準模型では、SU(2)xU(1)ゲージ対称性を電磁U(1)ゲージ対称性に破るのにヒッグス機構を用いるが、このやり方ではヒッグス粒子とクォーク・レプトン・ゲージボゾン、そしてヒッグス粒子の自己相互作用は任意のものとなり、原理が欠落している。細谷により1983年に発見された細谷機構では、4次元のヒッグスボゾンはゲージ場の5次元目成分の一部として出現し、ゲージ原理により相互作用が支配される。この細谷機構に基づいた電弱統合理論としてゲージヒッグス統合理論がある。 細谷は、SO(5)xU(1)電弱統合理論を構成し、その予言を導いた。光子、ZボゾンのKaluza-Klein励起モード(Z’粒子)が7 TeV - 8 TeV領域に出現する。現在、計画されているILC 250GeVではこれらのZ’粒子を直接生成することは不可能である。しかし、光子、ZボゾンとZ’粒子の干渉効果がILC 250GeVで顕著に現れることを示した。ILC 250GeVで250 fb^{-1}のデータ、つまり、動き出して最初の2年ほどでゲージヒッグス統合理論を確かめることができるのである。 さらに、細谷は強い相互作用も統合するSO(11)ゲージヒッグス大統一理論を6次元で構成した。ゲージ対称性はSO(11)からSO(4)xSO(7), さらにSU(2)xU(1)xSU(3)に破れ、最後に細谷機構で電磁U(1)xSU(3)に破れる。5次元で余分のエキゾティック粒子が出てしまう困難も解決されることを示した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
電子陽電子衝突実験でゲージヒッグス統合理論におけるZ'粒子(光子、ZボゾンのKK励起粒子)の効果が顕著に現れるのを示せたのは予想を遥かに超える成果だ。今まで、計画されているILC 250GeVでは、1TeV 以上の質量を持つ新粒子の物理を探ることは難しいと考えられてきた。そのため、ILC 250GeVの主目的はヒッグス粒子の相互作用の精密測定であるとされてきた。
SO(5)xU(1)ゲージヒッグス統合理論では、Z'粒子は7-8 TeV領域に予言される。右巻きのクォークレプトンはZ'粒子に強く結合するが、左巻きのクォークレプトンの結合は小さい。このパリティの大きな破れは、電子陽電子衝突で終状態がレプトン対、クォーク対の過程で、光子、Zボゾン経由の振幅とZ'粒子経由の振幅との干渉効果として顕著に現れる。計画されているILC 250GeVでは事象数が膨大(100万個ほど)で、7-8 TeV質量のZ'粒子との干渉効果は最初の2、3年で標準理論からのずれが5シグマの効果として観測されることが示された。ずれはエネルギーを上げて500GeVにすればもっと顕著になる。さらに、ILCで電子ビームの偏極を変化させると、左巻きでは標準理論とほぼ同じになるが、右巻きにすればするほどずれが大きくなる。ILCで標準理論を超える新しい物理を探索できることを示した。
6次元SO(11)ゲージヒッグス大統一理論で、クォークレプトンの質量スペクトルを再現し、細谷機構により電弱対称性が量子レベルで自発的に破れることも示された。この理論より帰結される低エネルギーでのSO(5)xU(1)xSU(3)ゲージヒッグス統合理論でのクォークレプトン多重項がこれまでのSO(5)xU(1)ゲージヒッグス電弱統合理論と少し異なるのも興味深い。
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今後の研究の推進方策 |
電子陽電子衝突線形加速器実験(ILC実験)でのSO(5)xU(1)ゲージヒッグス統合理論の検証方法を明らかにすることは喫緊の課題である。ILC建設のサイエンスとしての根拠の一つとなる。ILC実験で干渉効果を通して観測できるのは、クォークレプトンとZ'粒子の結合である。ゲージヒッグス統合理論では5次元目のアハロノフボーム位相が決まればほとんど全てが予言される。250GeVから500GeVのILC実験で何を測定したら良いか、解析を進める。
また、SO(11)ゲージヒッグス大統一理論から示唆されるSO(5)xU(1)ゲージヒッグス統合理論でのクォークレプトン多重項の入れ方を吟味する。新しい理論構成が可能だになるかもしれない。
SO(11)ゲージヒッグス大統一理論そのものの分析も推し進める。4次元大統一理論では陽子崩壊が予言されるが、ゲージヒッグス大統一理論では陽子崩壊は抑制されるようだ。フレーバー混合の起源も明らかにしたい。
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次年度使用額が生じた理由 |
旅費が安い航空券購入などで節約できた。 75,197円は、H30年度の国内研究会への旅費として有効に使う。
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