研究課題/領域番号 |
15K05055
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研究機関 | 神戸大学 |
研究代表者 |
坂本 眞人 神戸大学, 理学研究科, 准教授 (30183817)
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研究分担者 |
竹永 和典 熊本保健科学大学, 保健科学部, 教授 (50379294)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | ディラック作用 / 6次元 / 境界条件 / 余剰次元 / 量子力学的超対称性 / 超対称性 / カイラルフェルミオン |
研究実績の概要 |
今年度は、5次元余剰次元模型を6次元に拡張し、6次元ディラック作用の理論を考察した。この6次元ディラック作用の理論を用いて、クォーク・レプトンの世代数問題と質量階層性問題の解決が可能かどうかを探ることが、今年度の目的の1つであった。まず初めに、2次元余剰次元として長方形を考え、長方形の端点でどのような境界条件が許されるかを調べた。このとき、6次元ディラック作用に対して変分原理を要請することによって、すべての可能な境界条件を分類することに成功した。これは、2次元余剰次元上でディラック作用の理論を構築する上での出発点となる結果である。次に、得られた境界条件の中で、物理的に重要と思われる境界条件を選び、その境界条件の下で4次元スペクトラムを求め、どのような4次元粒子が現れるかを調べた。その結果、うまく境界条件を選ぶと、4次元のカイラルフェルミオンが2つ縮退して現れることがわかった。また、この2つのカイラルフェルミオンを用いると、質量階層性問題の解決を与える可能性があることもわかった。最初の解析では、4次元スペクトラムの構造はよくわからなかったが、我々は4次元スペクトラムに量子力学的超対称性が隠れていることを見出し、4次元スペクトラムの構造がこの対称性によって支配されていることがわかった。量子力学的超対称性から、4次元スペクトラムの中で質量をもたないゼロモードは他のモードと異なる性質をもつことがわかる。残念ながら、6次元ディラック作用の理論は、クォーク・レプトンの世代数である「3」ではなく、最大でも2重縮退までしか持てないので、世代数問題の解決を与えてはくれない。しかしながら、6次元より大きな余剰次元をもつディラック作用の理論を考えれば、世代数が3以上の模型が作れると期待できる。来年度はより高い次元のディラック作用の理論を考察する予定である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究は、余剰次元模型を用いて、クォーク・レプトンの世代数問題、質量階層性問題、世代混合、ニュートリノ質量の問題等を解決することが目的である。そのため、まずはクォーク・レプトンの世代数問題に注目して、自明でない世代数を出す模型を探すために、今年度は6次元ディラック作用の理論を考察した。初めに行ったのは、この理論において許される余剰次元方向の境界条件を完全に分類することである。これは、理論を余剰次元上で定義するための第一歩である。次に行ったことは、境界条件をうまく選ぶことによって、クォーク・レプトンの世代数を出すことが可能かどうかを探ることである。我々の解析でわかったことは、可能な境界条件の中で、最大の世代数は「2」であることである。実際のクォーク・レプトンの世代数は「3」なので、残念ながらこの模型では、世代数問題を解決することはできないことになる。しかしながら、この6次元ディラック作用の理論の解析から、6次元よりも高い次元のディラック作用を考えれば、世代数が3以上の理論を構築できることが予想できる。したがって、世代数問題の解決を与える模型を手に入れたと言える。次に質量階層性問題の解決であるが、この模型のクォーク・レプトンに対応する4次元カイラルフェルミオンは、余剰次元方向に局在化していることが明らかになった。局在化が起こると質量階層性問題の解決を与える可能性があることが知られている。まだ、本研究での目的の1つである、ダイナミカルにパラメータを決めるところまでは研究が進んでいないが、今回の解析で、足掛かりとなる模型が得られたので、来年度はダイナミカルにパラメータを決めることができるかを考察していきたい。
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今後の研究の推進方策 |
今年度の研究によって、クォーク・レプトンの世代数問題と質量階層性問題を解決する模型として、8次元以上のディラック作用の理論が候補として挙がった。そこでまずは、6次元ディラック作用の理論に対して行った解析を、8次元(以上の)ディラック作用の理論に適用して、許される境界条件と4次元スペクトラムの構造を求めることを行う予定である。そして、6次元のときと同じように、量子力学的超対称性が4次元スペクトラムの構造を支配することを明らかにし、高次元ディラック作用の理論における量子力学的超対称性の役割を明らかにしたい。そしてこの解析によって、世代数問題と質量階層性問題の解決の可能性を探るつもりである。そのとき、実際のクォーク・レプトンの構造をこの理論によって説明できるか、また、実験値を再現するパラメータ領域が存在するかを明らかにすることが重要になる。実験値を再現できるパラメータ領域がなければ、現実的な模型の構築は不可能なので、他の模型を探す必要がある。もし実験値を実際に再現できるパラメータ領域が存在するなら、この模型の解析をさらに押し進めることができる。そして、そのパラメータがなぜその値に決まったのかを問うことができる。それを、カシミアエネルギーを計算することによって決めようというのが、本研究の最終目標である。これが来年度の研究方針である。ただし、カシミアエネルギーの計算は、これまで他の研究でもなされていないと思われるので、カシミアエネルギーの計算に対する理論的整備も必要であると考えている。
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次年度使用額が生じた理由 |
旅費とセミナーなどの謝金が予定よりも少なかったため。
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次年度使用額の使用計画 |
繰越金は、次年度の旅費あるいはセミナーなどの謝金として使う予定である。
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