平成29年度は前年度に引き続き、バリオン数生成が可能な電弱相転移への条件を精密化するために以下の研究を実施した。高温・こうエネルギーにおけるスファレロン遷移率の評価の向上を目的とし、前年度に執筆した論文[arXiv:1612.05431]で用いたreduced modelの妥当性について議論した。また、相転移温度近傍でのスファレロン・エネルギーをより正確に評価するために、2ループレベルで利用できる再和法を応用し、熱的質量がある場合のゲージ不変なスファレロン・エネルギーの評価に着手した。ゲージ不変な熱的質量がある有効ラグランジアンは一般に非局所的な運動項を含むので、系統的な摂動展開が困難であるが、補助馬を導入することでゲージ不変性を保った可能にできる。この有効ラグランジアンから導出される静的運動方程式のスファレロン解を求めることに着手した。 研究期間全体では、当初目的とした電弱相転移に関する研究、特に転移温度、臨界泡生成温度と生成率を定め、電弱バリオン数生成の可否とヒッグスの物理との関係を精度良く定めることを目的としていたが、バリオン数非保存過程に対するエネルギーバンド構造の影響の研究を始めたために完遂できなかった。特に、以前可換ゲージ理論において開発した熱的質量の再和法を非可換ゲージ理論に形式的に拡張したが、Ward-Takahashi恒等式を援用した繰り込み可能性の証明については可換ゲージ理論のレベルではできていない。 今後は、熱的質量がある場合のゲージ不変なスファレロン・エネルギーの決定と、非可換ゲージ理論における摂動展開の定式化という残された課題に取り組む。
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