平成30年度は、一般化された杉野模型について理論面の理解を深め、数値的な解析を進めた。 現在解析を進めているリーマン面上の2次元超対称ゲージ理論は2個の超対称性と2種類のU(1)対称性を持っている。一般化された杉野理論はこの理論を離散化したものだが、離散化する際に超対称性を1個、U(1)対称性を1個保存するように工夫されている。そして、その連続極限ではリーマン面上の2次元超対称ゲージ理論が実現されていることが期待されるため、離散化した際に壊れていた残り1個の超対称性ともうひとつのU(1)対称性が回復するはずである。現在進めている解析は、数値計算によってこの対称性の回復を確認することを目的にしている。 量子論的な対称性の回復はWard-高橋(WT)恒等式と呼ばれる恒等式が成り立つかどうかで判定できる。今注目している理論では、壊れているU(1)対称性によって2個の超対称性が関連付いている。この事実に注目すると、壊れていた超対称性のWT恒等式とU(1)対称性のWT恒等式の間に、どちらかが成り立てばもう片方が自動的に成り立つという密な関係があることがわかる。我々はさらに、この関係を元に、連続極限において対称性が回復しているか否かを判定出来る観測量を特定した。 数値計算は、並列化した計算コードを用いて統計処理を行うために十分な量のデータを集めると同時に、物理量の評価を行うためのコードを開発した。特に、フェルミオンが関係した物理量を評価する際には巨大な行列の逆行列を評価する必要があり、適切なアルゴリズムの選定と複数のコアを並列的に利用する処理が不可欠である。その開発にあたっては、コンパイラに付属のライブラリ自体に存在していたバグのために予想以上の時間がかかったが、現在ではそれも回避されて正しく評価できることを確認している。現在、蓄積したデータに対して観測量の評価を行っており、近々成果を論文で公表する予定である。
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