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2015 年度 実施状況報告書

ドメインウォール法格子量子色力学による核子構造

研究課題

研究課題/領域番号 15K05064
研究機関大学共同利用機関法人高エネルギー加速器研究機構

研究代表者

太田 滋生  大学共同利用機関法人高エネルギー加速器研究機構, 素粒子原子核研究所, 准教授 (50183025)

研究期間 (年度) 2015-10-21 – 2019-03-31
キーワード格子QCD / 数値計算 / 核子構造 / 極性ベクトル流 / 軸性ベクトル流 / 形状因子 / 中性子寿命 / 構造関数
研究実績の概要

私が指導的立場にある日米共同の理研・ブルックヘイヴン・コロンビア(RBC)量子色力学(QCD)共同研究と連合王国UKQCD共同研究が合同で生成した2+1フレーヴァードメインウォール((DWF)法格子QCDゲージ配位アンサンブルのうち最近の5つのアンサンブルを用いる核子構造計算を進めた。これらはπ中間子の質量が約430、340、250、172、およびほぼ現実の値である約139MeVのアンサンブルで、格子切断運動量は各々約1.78、1.78、1.38、1.38、および1.78GeVである。π中間子質量が最も重い2アンサンブルについては既に幾つかの核子構造計算結果を出版したが、その後統計を増やし、その解析を進めている。次に重い2アンサンブルについても予備的な結果を学会等で発表しているが、重い2アンサンブルと合わせた論文を完成するために解析を進めている。π中間子質量がほぼ現実の値の場合の核子構造計算については予備的な計算を行いその結果を学会等で発表しているが、さらに技術的な改良が必要なので、その改良を進めている。

π中間子質量が現実の値より重い4アンサンブルについては保存流である極性ベクトル流形状因子の数値的な振る舞いはよく理解できており、実験値からのずれも質量のずれに起因するものとして理解できる。しかし保存流ではなく、強い相互作用による補正を受ける軸性ベクトル流形状因子の数値的な振る舞いはまだよく理解できていない。特に重要なのは中性子の寿命や核子π中間子相互作用を決定する軸性流電荷gAで、実験値1.2723(23)に対して計算値は最小1.11(5)から最大1.19(4)程度の過小評価となっている。その原因について研究を進めている。

また比較的に低い運動量移行の弾性散乱で測定される形状因子とは対照的に高い運動量移行の深非弾性散乱などで測定される核子構造関数のモーメントの計算も進めた。

現在までの達成度 (区分)
現在までの達成度 (区分)

2: おおむね順調に進展している

理由

実績概要で述べたように、計画した5アンサンブルのすべてで研究が進捗しており、概ね順調に進展している。

π中間子質量が現実より重い約430、340、250、および172MeVの4アンサンブルのうち、より軽い2アンサンブルの核子構造計算はほぼ完了し、解析を順調に進めている。またより重い2アンサンブルについては既に出版した結果に統計を増加し、増加分の解析を順調に進めている。これらが完成次第に、おそらく数カ月以内に報文を投稿する予定である。

π中間子質量が最も軽い、ほぼ現実の値のアンサンブルについて、20配位を抽出して予備計算を行い、クォークの伝搬関数ののデフレーションに用いた低い固有値の数500が不十分であると結論し、その改良作業を進めている。その間に予備計算に使用したプログラムの時間次元の境界条件の取り扱いに誤りがあり、予備統計の約10分の1がこの誤りの影響を受けることを見出した。影響は軽微でデフレーションに関する結論には影響しないと想定できたが、確認のためプログラムの訂正後に同じデフレーション条件で再計算を行ったところ、想定の通り、低い固有値の数500は依然として不十分であることが確認されたが、このアンサンブルの計算に数カ月の遅延を生じた。しかし、十分と想定される低固有値数2000での計算を実行できる高性能の計算機は限られており、この遅延の間にそのような高性能計算機を使用できる機会は非常に限られていたので、いずれにせよ数カ月程度の遅延は避けられず、プログラムの誤りによる悪影響は軽微であったと考えられる。同じく計算機資源の不足という理由のため、まだ新しく設定したデフレーション条件の低い固有値の数2000がこのアンサンブルでの核子構造計算に十分であることをを統計的に確認するには至っていないが、合衆国における十分に高性能な計算機の設置数が急速に増加しているので今後は順調に推移すると期待できる。

今後の研究の推進方策

π中間子質量が現実より重い4アンサンブルの核子構造計算の解析をなるべく早く完了し、報文を投稿する。これは夏までには完了する見込みで、夏に開催される国際会議と秋の日本物理学会大会で予備的な報告を行い、その後速やかに報文を執筆し投稿する予定である。

π中間子質量がほぼ現実の値のアンサンブルについて、低い固有値の数が2000のデフレーション条件で20配位程度の予備計算を予定している。夏までにこの予備計算を完了し、問題がないことが確認できればその後速やかに本計算に移行する。これらが順調に進捗すれば、同じくπ中間子質量はがほぼ現実の値139MeVで、格子切断運動量はより高い2.38GeVのアンサンブルでの核子構造計算の検討を行う。しかしこのアンサンブルでの核子構造計算はさらに高性能の計算機を必要とするので、すぐに開始できる可能性は低い。一方、実績概要で述べた軸性電荷gAの過小評価の原因を解明する研究も必要である。原因として最も可能性が高いのは格子体積が小さすぎることなので大きな体積での計算が有効である。そのため格子切断運動量を下げること、特に、既に行った格子切断運動量約1.38GeVで格子体積を大幅に拡大することと、より低い1.1GeV程度の切断運動量を検討している。いずれも合衆国において急速に設置数が増加している高性能計算機群で実行可能なので、できれば両方行うが、もしどちらか一つのみを選ばなければならない場合はより詳しく検討する。

さらに現在は質量縮退して取り扱っているup及びdownクォークの質量縮退を解いた1+1+1フレーヴァー格子QCDにQEDをも加えたより厳密な計算によってアイソスピン対称性の破れの効果を研究することや、より重いcharmクォークも加えた2+1+1または1+1+1+1フレーヴァー格子QCDによって現在は無視している1%程度以下の系統誤差の研究も検討する。

次年度使用額が生じた理由

追加採択の内定通知が10月21日で、交付決定通知は11月20日でしたのでそれから使用を準備し、実際に使用開始したのは1月末でしたためです。

次年度使用額の使用計画

国内及び国外旅費として使用する予定です。

  • 研究成果

    (5件)

すべて 2016 2015 その他

すべて 国際共同研究 (2件) 雑誌論文 (3件) (うち国際共著 3件、 査読あり 3件、 オープンアクセス 3件)

  • [国際共同研究] ブルックヘイヴン国立研究所/コロンビア大学(米国)

    • 国名
      米国
    • 外国機関名
      ブルックヘイヴン国立研究所/コロンビア大学
  • [国際共同研究] エディンバラ大学/サウサンプトン大学(英国)

    • 国名
      英国
    • 外国機関名
      エディンバラ大学/サウサンプトン大学
  • [雑誌論文] Low energy constants of SU(2) partially quenched chiral perturbation theory from Nf f =2+1 domain wall QCD2016

    • 著者名/発表者名
      P.A. Boyle, N.H. Christ, N. Garron, C. Jung, A. Juttner, C. Kelly, R.D. Mawhinney, G. McGlynn , D.J. Murphy , S. Ohta, A. Portelli, C.T. Sachrajda
    • 雑誌名

      Physical Review D

      巻: 93 ページ: 54502

    • DOI

      10.1103/PhysRevD.93.054502

    • 査読あり / オープンアクセス / 国際共著
  • [雑誌論文] Initial nucleon structure results with chiral quarks at the physical point2015

    • 著者名/発表者名
      S. Syritsyn, T. Blum, M. Engelhardt, J. Green, T. Izubuchi, C. Jung, S. Krieg, M. Lin, S. Meinel, J. Negele, S. Ohta, A. Pochinsky and E. Shintani
    • 雑誌名

      Proceedings of Science

      巻: LATTICE2014 ページ: 134

    • 査読あり / オープンアクセス / 国際共著
  • [雑誌論文] Systematics analyses on nucleon isovector observables in 2+1-flavor dynamical domain-wall lattice QCD near physical mass2015

    • 著者名/発表者名
      S. Ohta
    • 雑誌名

      Proceedings of Science

      巻: LATTICE2014 ページ: 149

    • 査読あり / オープンアクセス / 国際共著

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公開日: 2017-01-06   更新日: 2022-02-03  

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