研究実績の概要 |
ブラックホール時空上における波動光学の整備を試みた.ブラックホール時空上での Green 関数に対する部分波展開式を出発点とし,ブラックホール近傍に位置する波源から放出される波に対する散乱公式の導出を短波長領域において行なった.重力レンズ 系としての散乱問題を定式化するためには,位相のずれを用いた標準的な散乱問題の扱いを多少拡張する必要がある.まず,観測点における波として入射波と散乱波の2つの重ね合わせを考える必要がある. また,短波長極限(アイコナール極限)にて重力レンズ方程式( 測地線方程式に対応)を再現するために,散乱波の位相の観測点における漸近形を標準的な散乱理論の取扱いに比べて1次高い精度まで (O(1/r) まで) 取り入れておく必要がある.ブラックホール時空固有の性質である光の不安定円軌道の存在は,散乱行列の複素角運動 量平面上での極として現れる(Regge pole).散乱波に対するその寄与は,留数計算を用いる事で評価できる.目標は観測点における波動関数を与える公式の導出である.
本研究では最終的には球対称時空における波動光学の効果を,数値計算に基づいて取り扱いphoton sphere内部の情報が観測量である散乱波のパワースペクトルに及ぼす効果を明らかにすることができた.
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