研究課題/領域番号 |
15K05074
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研究機関 | 名古屋大学 |
研究代表者 |
松原 隆彦 名古屋大学, 理学(系)研究科(研究院), 准教授 (00282715)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | 宇宙論 / 宇宙の大規模構造 / 非線形摂動論 / 天体バイアス / ハローモデル |
研究実績の概要 |
本年度は、天体バイアスを特徴付けるための幾つかのモデルを詳細に調べるとともに、これを宇宙論的な観測量に結びつけるために用いる統合摂動論の基礎的な研究も行った。 統合摂動論はラグランジュ描像に基づいた非線形摂動解析手法であり、伝統的なオイラー描像に基づく摂動解析手法に比べると先行する研究の歴史が浅い。このため、オイラー摂動論では古くから知られていた高次摂動項を再帰的に導く再帰関係式が、ラグランジュ摂動論では長らく知られていなかった。最近、オイラー摂動論と組み合わせてラグランジュ摂動論の再帰関係式を導く研究や、特定の宇宙モデルに限った再帰関係式が求められたが、本研究ではこれを一般的な宇宙モデルについて、ラグランジュ摂動論の枠組みの範囲内だけで整合的に導くことに成功した。これにより統合摂動論の基礎がより固められた。 さらに、天体バイアスについて幾つかの有望なモデルを統合摂動論に組み込むことにも成功した。統合摂動論では、天体バイアスの効果はくりこまれたバイアス関数によって完全に表される。この関数の具体形を求めることは、バイアスの問題を解く本質であるが、これまで簡単なハローバイアスモデルに基づいたものしか得られていなかった。今回、初期ゆらぎの密度ピークに基づくバイアスモデルについて、その解析的表式を導いた。さらに、ハローの崩壊条件を改善してピークモデルと組み合わせたExcursion Set Peaksというモデルについても、解析的にバイアス関数を求めることに成功した。これを統合摂動論に組み入れることにより、観測量に対して具体的な予言を定量的に行うことができるようになった。大きなスケールのパワースペクトルや相関関数は、バイアスモデルの違いによって数パーセントの影響があり、精密な宇宙論的解析においては無視できないことを示した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
当初は難しいとも考えられた、天体バイアスの解析的定式化については、予想以上の成果が得られた。ジュネーブ大学の共同研究者とともに、ピークバイアスモデルとそれを拡張したExcursion Set Peaksモデルについて、本研究で重要な量であるくりこまれたバイアス関数を解析的に求めることができた。さらに、これらのモデルに現れてくる係数の値について、簡単に評価できる積分の公式を発見し、モデルの簡単化にも寄与した。 さらに特筆すべきは、この研究を通じて予想していなかった速度バイアスの効果が統合摂動論で整合的に取り扱えることが判明したことである。このため、天体の密度に関するバイアスだけでなく、その速度に対するバイアスも含めて考えることが可能になった。天体の密度と速度は関係しており、これについてバイアスという観点からこれまでにない新しい知見が得られる可能性が大きい。
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今後の研究の推進方策 |
統合摂動論の枠組みは天体バイアスの効果を調べるための強力な手法であることが実証できたため、今後はさらにそこからの帰結を調べるための研究を行う。 これまで天体バイアスについてあまり調べられていない効果として、速度バイアスの効果がある。統合摂動論によると、この効果も系統的に調べられることが予備的な考察によって明らかになっている。これはピークバイアスなど特定のバイアス機構に存在する効果であり、その性質はこれまであまり調べられていない。そこで統合摂動論によって観測可能量との関係を調べることが可能になる。 また、数値シミュレーションによって得られているハローカタログを詳細に分析して、摂動論で到達できない強い非線形領域における天体バイアスの効果を調べるとともに、統合摂動論との比較を行い、摂動論の適用範囲を明らかにする。また、より非線形性の強い領域にも摂動論を拡張する方法についても模索する。
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次年度使用額が生じた理由 |
今年度は解析的モデルの研究に予想外の進展が見られたため、当初導入予定だった数値計算用の計算機の購入を次年度に回すこととした。計算機環境の構築を次年度に回すことで、同じ予算の範囲でより高負荷の計算が可能になり、本研究にとってのメリットが大きくなる。また、国際会議などに出席するにあたり、主催者側から旅費滞在費などの補助が得られたため、本研究費で予定していた旅費費用が当初の見積もりよりも少なくなった。
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次年度使用額の使用計画 |
次年度に割り当てられた予算と合わせて、より効率的な計算環境の充実に当てる。現在手元にあるワークステーションをグレードアップし、数値シミュレーションデータや高負荷の積分計算に対応するため、十分なコア数、メモリ数を確保する。また十分ストレージ容量を確保する。
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