今年度も前年度に引き続き、連星中性子星の重力波初検出イベントGW170817の長期観測結果を受けて、マルチメッセンジャー天文学の展望を議論した。合体イベントレートが初めて重力波観測をもとに推定可能となったこと、従来大きな不定性が想定されていた電磁波カウンターパートが実際に観測されたことの2点が研究遂行上特に重要であった。具体的な研究成果としては、GW170817のように際立った天体現象が信号の送受信の際にSchellingポイントとして活用できる可能性を示し、必要な送信パワー等も評価した。 本計画の実施期間を通して階層的三体系に対する永年摂動論の効果を研究の柱に据えてきた。具体的な対象としては銀河中心ブラックホール周りの星団を想定し、第2の巨大ブラックホールが断熱的に落下してくる状況を考えた。対応するハミルトニアンは、(1)第2ブラックホールの潮汐ポテンシャル、(2)中心ブラックホールよる相対論的補正、(3)星団のポテンシャルの三項から構成されている。計画の初期段階で数値的に発見した星の離心率等の特異な遷移、およびこの遷移が軌道要素の初期条件にきわめて敏感であることに対して力学の基礎に立ち返って解析を行った。研究の流れとしては、まず断熱不変量を援用して、位相空間および個々の軌道要素の時間発展を追い、発見した特異な現象がseparatrix通過時の確率分岐によるものであることを突き止めた。引き続いてリウビルの定理を援用してこの確率分岐比を評価した。
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