強い相互作用の基礎理論である量子色力学(QCD)に基づき、現代物理学においても未解決な問題である「カラーの閉じ込め」に関する独自性の高い下記の研究を行った。 1.QCDにおける「カラーの閉じ込め」と「強磁場中の物理」の類似性の研究:カラーの閉じ込めはQCDが示す「極めて特異な現象」であり、他の物理系では殆ど見られない。その謎を解く鍵のひとつは「カラー電束の1次元化」であるが、実は、物理において非常にポピュラーな「強磁場」という状況下では、荷電粒子の 最低ランダウ準位のみが主要となり、結果、有効次元が減少し、空間自由度が1次元的になる。そこで、QCDとは異なる“SU(2)の非可換ヒッグス理論”を対象に、「一定の強磁場」を想定し、研究を行った。その結果、荷電ベクトル場がゼロ質量になる「臨界強磁場」中での非可換ヒッグス系においては、磁場の方向に「空間1次元的な強相関」が生じ、QCDの閉じ込め現象に特徴的な「線型ポテンシャル」が現れることを示した。これは、新しいタイプの閉じ込め現象の可能性を示唆するものである。 2.クォークの閉じ込めに対する双対超伝導描像の定量的研究:クォークの閉じ込め機構の有力な仮説の1つに、南部・トフーフト・マンデルスタムが提唱した「双対超伝導描像」がある。これは、QCD真空を「超伝導と双対な系」と捉え、QCDモノポールの凝縮により、カラー電束の1次元化を説明する物理的な描像である。我々は、最大可換ゲージでのSU(3)QCDに対して、大きなサイズでの高統計の格子QCD計算を行い、中間子およびバリオン中での「クォークに対する閉じ込め力」に対する、QCDモノポールの寄与を高精度で計算した。その結果、中間子とバリオン(3クォーク系)の双方について、「ハドロン中のクォーク閉じ込め」に対して、QCDモノポールの寄与が主要である等の「モノポール・ドミナンス」を定量的に示した。
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