研究課題/領域番号 |
15K05081
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研究機関 | 大阪市立大学 |
研究代表者 |
田越 秀行 大阪市立大学, 大学院理学研究科, 准教授 (30311765)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | 重力波 / 一般相対論 / ブラックホール / 中性子星 |
研究実績の概要 |
前年度に引き続き,スピンがある場合の効率的な連星合体重力波探査のため,スピン歳差運動がある場合の重力波波形計算について,新しい方法によって近似波形を生成するための定式化の研究を行った.また,KAGRAデータ解析のために独自に開発されたパイプラインを用いて,2016年3月4月に行われたKAGRAの試験運転時の実際のデータを用いて,中性子星連星合体探索を行った.更に,LIGOによるブラックホール連星合体重力波の検出により,ブラックホール連星合体波形の詳細な解析や,ブラックホール準固有振動重力波の解析が重要となったことに対応して,今年度は以下のような研究も行った. 1.ブラックホール連星合体直後に発生する準固有振動重力波から,合体後のブラックホールの質量と角運動量を決定し,一般相対論との矛盾がないかの検証を行う可能性について研究を行った.これまでの研究で,準固有振動重力波の開始時刻の不定性により,準固有振動重力波の振動数と減衰率の正確な決定が困難である問題が判明した. 2.2台の検出器によってコンパクト連星合体重力波を検出する場合には,方向の決定精度が非常に悪い事が知られている.そのような状況で,小口径の光学望遠鏡によって対応天体を探す場合の最適な方向はどうなるかについて調べた.その結果,2台検出器によって決まる最も確率の高い方向を探索することは必ずしも有利ではないことを示した.それは,多くの場合確率が最も高い方向は,波源の距離が遠方であるため,小口径望遠鏡では対応天体の検出はたとえその方向にあったとしても暗くて検出が困難であるからである.公開されているデータを用いて,LIGOの候補を含む最初の3つの重力波イベントの再解析を行い,確率的には低くてもより近傍に限ると,最も有利な方向は,2台検出器によるもともと確率が高い方向とは全く別の方向となることを示した.論文は現在準備中である.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本年度は,2016年3月4月に行われたKAGRAの最初の試験運転で取得されたデータの解析が重要な課題であった.従って,KAGRAデータ解析のために独自に開発されたパイプラインを用いて,中性子星連星合体重力波の探索を行った.LIGOやVirgoとは独立した自前のパイプラインを持つことは,解析コードのブラックボックス化を防ぎ,解析内容の全てを把握することができるため,これは非常に重要な点である.データの処理は順調に進展している.また,LIGOによる重力波の初観測によって重要性が格段にアップした,重力波天体の電磁波フォローアップ観測に関係した研究と,ブラックホール連星合体に関係した研究も行った.重力波天体の電磁波フォローアップに関係した研究では,小口径の光学望遠鏡によって対応天体を探す場合の最適な方向は,2台検出器によって決まる最も確率の高い方向ではないことを見いだした.これは考えてみればあたりまえの事なのであるが,従来は見逃されていた点である.今後はLIGOの2台に加えてVirgoが観測に加わり,3台検出器の体制となっていくものと考えられる.また,将来的にはKAGRAも加わり4台検出器体制となる.しかしながら,各レーザー干渉計の稼働率は80から90%程度であるため,将来的にも検出器2台でのみ検出される状況は考えられ,そのような状況でのフォローアップ観測の戦略を考えるために非常に重要な結果であると言える.更に,前年度中に投稿していた,修正重力理論の制限と,HHTによる中性子星連星合体シミュレーション波形の解析に関する2つの論文は無事に受理出版された.
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今後の研究の推進方策 |
アメリカのLIGOによる重力波の初観測により,重力波研究の状況は大きく変化した.重力波の検出はあたりまえとなり,今後は重力波を用いた物理学と天体物理学の研究が重要になる.それに対応して,ブラックホール連星合体重力波とブラックホール準固有振動重力波の観測による,一般相対論の検証の可能性について研究を行う.また,検出されたブラックホール連星では,星のスピンはGW151226では少なくとも1つのブラックホールについてはあるとされた.今後はスピン歳差運動がある場合についての重力波探索とパラメータ推定が重要性を増していくものと考えられる.日本では今後2年間はKAGRAの本格的な観測運転前のデータ解析の準備期間であり,データ解析体制を整えることが最重要課題となる.本研究でも,スピン歳差運動がある場合の新しい連星合体重力波波形計算手法をコンパクト連星合体重力波パイプラインに組み込んでいく.そして,KAGRAの試験運転データ,公開されているLIGOデータ等を用いたパフォーマンス試験を行う.
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次年度使用額が生じた理由 |
今年度は当初はワークステーションを購入予定であったが,数値計算よりも解析的な計算を優先して行うべきと判断し,ワークステーションは購入しなかった.研究は問題無く遂行した.
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次年度使用額の使用計画 |
次年度使用額は,次年度における研究員雇用,研究打ち合わせや成果発表における旅費などに使用する.
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