研究課題/領域番号 |
15K05084
|
研究機関 | 佐賀大学 |
研究代表者 |
高橋 智 佐賀大学, 工学(系)研究科(研究院), 准教授 (60432960)
|
研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2019-03-31
|
キーワード | 密度揺らぎ / 初期宇宙 / 複数場インフレーションモデル |
研究実績の概要 |
平成29年度は,インフレーションの加速膨張後の宇宙進化を考える上で重要な「再加熱温度」に対する制限,及び,複数場インフレーションモデル(カーバトンモデル)における「等曲率揺らぎ」について研究を進めた. 再加熱温度に関する研究においては,インフレーション後の輻射優勢宇宙の後に,一度物質優勢時期があり,その後また,輻射優勢宇宙となるような宇宙の進化シナリオに着目し(このようなシナリオは,カーバトンモデルなどで,振動しているスカラー場よるエネルギー密度が宇宙を支配する場合など,初期宇宙進化のモデルでよく現れるものである),2度目の輻射優勢宇宙が始まる際の再加熱温度について,ウルトラコンパクトミニハローからの議論により,その制限を求めた.フェルミ衛星の観測からの制限においては,暗黒物質の性質に依存する部分もあるが,物質優勢期の長さによっては,ビッグバン元素合成や宇宙背景放射の揺らぎからの議論よりも厳しい制限を与えうることを示した. また,カーバトン模型における「等曲率揺らぎ」に関して,詳細な解析を行うことにより,これまでの研究において(宇宙背景放射の観測などから)排除されていると考えられていたシナリオ(パラメタ領域)でも,等曲率揺らぎがほとんど生成されず,観測から排除されない場合があることを示した.特に,現在の原始揺らぎの非ガウス性の制限から,カーバトンモデルにおいては,カーバトン場は宇宙のエネルギー密度を(ほぼ)支配してから崩壊することが要求されるが,そのような場合に上記のように(従来排除されると考えられていたパラメタ領域において)等曲率揺らぎが抑制されることを示した.当該研究は複数場インフレーションのモデル構築の際,大きな示唆を与えると考えられる.
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
当該年度においては,特に複数場インフレーションモデルから示唆される初期宇宙進化シナリオに関する研究を進めることができた.再加熱温度に対する制限,及び,等曲率揺らぎに関する制限は,初期宇宙進化シナリオを解明していく上で重要であり,これらの制限とともに,原始密度揺らぎのパワースペクトル,非ガウス性についての制限を合わせて検討していくことにより,さらに研究が進展すると考えられる.上記の研究において,幾つかの興味深い点が明らかにすることも出来た.よって,研究は概ね順調に進展していると考えられる.
|
今後の研究の推進方策 |
これまでは,主に原始密度揺らぎのパワースペクトルのスケール依存性,インフレーション後の宇宙進化の中での再加熱温度,等曲率揺らぎなどについて取り組んできた.今後は,原始密度揺らぎの非ガウス性の詳細な解析を中心に取り組んでいきたい.特に,非ガウス性を用いることにより,単一場インフレーションモデルと複数場インレーションモデルを峻別することが可能になるが,将来の宇宙観測において,3点関数,4点関数の振幅,及び,そのスケール依存性がどの程度の精度で観測可能か,という点と,それらの情報が初期宇宙進化シナリオの解明にどのように使えるか,様々なアプローチを考慮し,検討を進めていきたい.また,これらの量とパワースペクトル(特に小スケール)の情報を合わせることに得られる知見についても検討していきたい. さらには,原始重力波からの情報と上記の非ガウス性などの情報を合わせることにより,インフレーションモデルの峻別,及び,その後の宇宙進化シナリオをどのように解明していくことができるかについて,それらの情報のシナジー効果に着目し,研究を進めていきたい. 次年度は本研究の最終年度でもあるので,これまでの研究で得られた知見を総括し,その上で,さらに今後進めるべき方向についても検討していきたい.
|