研究実績の概要 |
研究期間中に研究代表者は、ワームホール形成をモデル化した時空において量子場の振る舞いを詳細に調べた。ここで、ワームホール形成をモデル化した時空とは、1次元空洞(cavity)の中央付近にある間仕切り(Dirichlet境界)が突如として消滅するようなものを示している。これによって、二つの分断された空間がワームホールによって結合する様子を真似ている。結果として、間仕切りが消滅する瞬間(ワームホールが形成する瞬間)に爆発的な粒子生成が起こることを示した(Harada-Kinoshita-Miyamoto, Physical Review D 2016)。この結果は、爆発的粒子生成の反作用で時空が不安定化することを強く示唆している。 また、上の研究を通して、ワームホール形成の量子論的不安定化が一般的な現象であることを示すには、境界条件の時間変化が量子場に及ぼす影響を包括的に調べなければならないとの理解に至った。それを受け最終年度では、有限および半無限の1次元空洞において、境界条件が瞬間的に変化した場合に粒子生成の様子を定量的に調べ、全ての場合において解析的な結果を得ることに成功した(Miyamoto, Physical Review D 2019)。 また、ワームホールの理解に相補的な役割を果たすブラックホールについて様々な解析を行った。以上の結果は、ワームホール形成の量子論的不安定性に関しての礎と成り得る意義深い研究と言える。また、考察した系は普遍的なものであるため、低エネルギーで再現できる実験と関連しており、相対論の基礎研究を実験と結びつける研究として重要な役割を担いうるものである。
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