研究課題
本研究では超新星残骸などの宇宙線を加速している衝撃波を対象とし、衝撃波の上流媒質の非一様性(密度揺らぎの存在)が宇宙線加速過程におよぼす影響を明らかにすることを目指している。初年度となる平成27年度では、まずは非一様な媒質中を伝播する衝撃波の磁気流体シミュレーションを行った。1、衝撃波は初期では平面波を仮定し、密度揺らぎの大きさをかえた計算を行った。これにより、衝撃波近傍の磁気乱流や密度・速度構造を取得した。さらに、これらの磁気流体場のもとで宇宙線加速効率測定のためのバルマー輝線放射の疑似観測を行った。昨年度の論文で密度揺らぎの大きさが平均密度の30%の場合の計算のみをもとに波面のゆらぎの解析的な表式、およびバルマー輝線放射を用いた衝撃波下流の温度の推定値に対する解析的な表式を得ているが、他の密度揺らぎの大きさの場合についてもほぼ解析的表式を当てはめることができることを確認した。2、実際の超新星爆発のように、点源爆発を仮定して3次元のシミュレーションを行い、上と同様に磁気乱流や密度・速度構造を取得した。3、宇宙線加速効率の大きな超新星残骸の衝撃波での密度ジャンプ(サブショック)周辺と比較的類似した状態をもつと考えられる銀河団衝撃波での宇宙線加速について調べ、以下の成果を挙げた。(1)銀河団形成に伴い銀河団外部から降着してくる物質のつくる衝撃波での粒子加速効率を、可視光帯域の逆コンプトン散乱を用いて推定する方法を提唱し、幾つかの銀河団で実際に可視光逆コンプトン散乱放射を観測可能であることを指摘した。(2)銀河団下流で生じる乱流によるフェルミ2次加速によってシンクロトロン電波放射の天球面での形態(morphology)の観測的特徴を統一的に説明できる可能性を指摘した。
2: おおむね順調に進展している
「研究実施の概要」で述べたように、当初の計画通り、非一様媒質中を伝播する超新星残骸の衝撃波の磁気流体シミュレーションを行ってシミュレーションデータを取得できている。銀河団についての成果は超新星残骸の衝撃波との比較研究という意味はもちろんのこと、逆コンプトン散乱放射の計算手法や乱流加速の評価方法は超新星残骸と銀河団で同じであるため、超新星残骸についての今後の研究にすぐに適用可能な予備的成果にもなっている。
磁気流体シミュレーションによって得られたシミュレーションデータをもとに、乱流場中での粒子加速過程、さらに得られた宇宙線粒子分布をもとにしたバルマー輝線放射、シンクロトロン放射、逆コンプトン散乱放射等の電磁波放射仮定を詳細に計算し、宇宙線加速に関する示唆を得る。それらから、非一様媒質中を伝播する衝撃波での宇宙線加速過程の特徴、観測的予言を得て、将来観測に対する提言を行う。また、磁気流体シミュレーションのチェック、及び、解析的評価式の高精度の確認をめざし、上流の密度揺らぎの小さな場合についての摂動解析を行い、バルマー輝線放射の輝線幅等の上流密度揺らぎ依存性を明らかにしていく予定である。
すべて 2016 2015
すべて 雑誌論文 (5件) (うち国際共著 3件、 査読あり 5件、 謝辞記載あり 5件、 オープンアクセス 1件) 学会発表 (1件)
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