研究課題
超新星残骸の外縁部にある強い衝撃波ではkneeエネルギー(=10の15.5乗eV)以下の銀河宇宙線が加速されていると考えられている。衝撃波の伝播する媒質はこれまでは簡単のため一様性が仮定されることが多かったが、現実の星間空間は分子雲などの密度揺らぎが存在する。本研究では、上流媒質の非一様性が宇宙線加速過程におよぼす影響を明らかにすることを目指している。2年目となる平成28年度では、以下の研究をおこなった。1、バルマー輝線放射、シンクロトロン放射、逆コンプトン散乱放射、中性パイ中間子崩壊によるガンマ線放射等を計算するコードを整備・作成した。そして、分子雲と衝突している超新星残骸RX J1713.7-3946の最新のガンマ線観測データを宇宙線電子の逆コンプトン散乱放射で説明可能であることを示した。さらに、分子雲と相互作用している、または近傍に分子雲が存在する複数の超新星残骸(Vela Jr., Cassiopeia A, G306.3-0.9)のX線観測を行い、スペクトル形、時間変化、衝撃波下流のプラズマ電離状態をそれぞれ調べ、分子雲衝突の観測的特徴が現れるかどうか調べた。2、衝撃波の下流領域での乱流によるフェルミ2次加速によって被加速粒子の最高到達エネルギーがkneeエネルギーに到達しうるかどうかを検討したが、分子雲と相互作用する超新星残骸のような強い乱流が期待される状況下においても結果は否定的であった。3、超新星残骸と同様に強い衝撃波が存在しうる天体現象について以下の成果を得た。(1) 重力波イベントGW150914から弱いガンマ線も同時に検出された可能性があるという報告を受け、もしガンマ線検出が本当ならば残光として電波シンクロトロン放射が検出可能であることを指摘した。(2) 木星型惑星が中心の恒星に落下してエネルギー解放をすると、残光として数千年にわたって電波シンクロトロン放射を行い、それが検出可能であることを指摘した。
2: おおむね順調に進展している
「研究実施の概要」でも述べたように、当初の計画通り、各種電磁波放射の計算コードの整備が進んだ。重力波天体と木星型惑星-恒星の衝突現象についての成果は超新星残骸の衝撃波との比較研究という意味はもちろんのこと、電波シンクロトロン放射の計算手法や予想されるフラックスの評価方法は超新星残骸の場合と同じであるため、超新星残骸についての今後の研究にすぐに適用可能な予備的成果にもなっている。
初年度の磁気流体シミュレーションによって得られたシミュレーションデータをもとに、現実的な星間媒質中を伝播する衝撃波近傍での宇宙線粒子分布に対するバルマー輝線放射、シンクロトロン放射、逆コンプトン散乱放射、中性パイ中間子崩壊によるガンマ線放射等の電磁波放射を詳細に計算し、宇宙線加速に関する示唆を得る。それらから、非一様媒質中を伝播する衝撃波での宇宙線加速過程の特徴、観測的予言を得て、将来観測に対する提言を行う。衝撃波上流領域の磁場が宇宙線起源で増幅されるという世界の主流モデルではない枠組みでkneeエネルギーまで宇宙線を加速できるかどうか検討する。また、年齢が数百年、数千年、数万年の超新星残骸のそれぞれのガンマ線スペクトルを、ひとつの超新星残骸の時間発展という視点で統一的に説明できるモデルを構築し、非一様媒質中を伝播する衝撃波での粒子加速過程のシナリオを完成させる。
すべて 2017 2016
すべて 雑誌論文 (6件) (うち国際共著 3件、 査読あり 6件、 謝辞記載あり 6件) 学会発表 (6件)
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