研究課題/領域番号 |
15K05091
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研究機関 | 大阪工業大学 |
研究代表者 |
明 孝之 大阪工業大学, 工学部, 准教授 (20423212)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | 核力 / テンソル力 / 短距離斥力 / 第一原理計算 / クラスター / 分子動力学 / ジャストロー / 相関関数 |
研究実績の概要 |
「テンソル最適化反対称化分子動力学」(Tensor-Optimized Antisymmetrized Molecular Dynamics, TOAMD)の構築と軽い原子核への適用を行った。TOAMDは、核力の重要な成分であるテンソル力と短距離斥力を直接扱う第一原理計算であり、エネルギー変分原理に基づく。TOAMDでは、テンソル演算子型と中心力型の2種類の2体相関関数から多体相関演算子を作り、それら基底関数であるAMDに掛けることで、核力が生む相関を記述する。
1. 核力を用いて4He等の軽い原子核へTOAMDを適用した。その結果、相関関数の2乗項までの範囲で精密計算のエネルギー、各ハミルトニアン項の行列要素、半径を再現することがわかった。すなわちTOAMDの有効性が示された。この成果を論文に発表した。 2. TOAMDでは相関関数とハミルトニアンの積をクラスター展開法により多体ハミルトニアン項に分解し、得られた項を全て扱うことで変分計算を行う。各多体項のエネルギーへの寄与を軽い核で調べ、それらが重要な成分であることを示した。これらの成果をまとめ、論文として投稿した。 3. 核力は中心力に斥力芯がある。TOAMDは中心力型の相関関数を持つので斥力芯も扱える。そこで中心力のみの核力の場合でのTOAMDの有効性を調べた。その結果、精密計算を再現することがわかった。加えてTOAMDでは相関関数の多重積として冪級数展開を用いるが、これを従来の積型のジャストロー法の相関関数と比較した。その結果、TOAMDの方が良いエネルギーを与えることが分かった。これらの成果を論文として発表した。 4. モンゴル国立大学のM. Odsuren氏との共同研究では、複素スケーリング法で求めたグリーン関数を利用してs波の仮想状態の性質を得る方法を構築した。具体的に2体系への適用結果を論文として投稿した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
テンソル最適化反対称化分子動力学「TOAMD」の構築に成功し、核力を用いて有限核への適用を行い、精密計算を再現するなどの成果を上げた。TOAMDに導入されたテンソル力と中心力の2種類の相関関数が非常に効果的であったことが確認された。
TOAMDでは相関関数による冪級数展開を用いて波動関数が構成される。冪数(オーダー)を上げることでTOAMDの模型空間が拡張され、変分法としての精度が上がる。冪級数展開は、TOAMDを考案した当初は無かった考えであったが、結果的にTOAMDの有効性に非常に重要であることが判明した。特に通常の展開法と異なる部分は、展開された各項に含まれる相関関数が全て独立に最適化されることであり、この効果によりTOAMDは精密解を再現する。
複素スケーリング法については、スケーリング変換された連続状態の解を利用することでs波の仮想状態の性質を求める新しい方法を構築することができた。
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今後の研究の推進方策 |
1) これまでTOAMDで扱った核力は2体力である。その範囲でTOAMDは精密解を再現することが分かったので、次段階として藤田-宮沢型の2π中間子交換型の3体力を導入する。TOAMDではクラスター展開を用いて多体ハミルトニアン項を展開し、全ての項を解析的に取り扱う。3体力も多体項の一部として同様の手法で扱っていく。 2) 現在のTOAMDでは、相関関数の2乗項までが含まれている。そのオーダーを上げて3乗項に増やして変分空間を拡張する。別の拡張の方法として、AMD基底関数に生成座標法を適用することで配位混合を行い、多体相関を取り入れる事を試行する。 3) TOAMDにより、質量数4までの原子核(s殻核)の記述は成功した。次に質量数5以上のp殻核をTOAMDで扱う。p殻核における相関関数の様相を調べることは興味深い課題である。 4) 複素スケーリング法を用いて9Be等の3体系以上の多体系における仮想状態の性質を調べる。
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次年度使用額が生じた理由 |
予定していた幾つかの研究打合せや国内研究会への参加が、本務先の用務によりキャンセルとなったため。
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次年度使用額の使用計画 |
国内での学会、研究打合せ等の旅費に使用する予定である。
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