研究課題
2015年に国際宇宙ステーションで開始されたCALET実験は、さまざまな高エネルギー宇宙線を観測対象としているが、原子核成分を観測する主な目的は、その加速・伝播機構の解明である。本研究は、CALET実験で得られた原子核成分観測データの初期解析を目的としている。平成28年度は、実際の観測データの解析に着手した。観測データはCALET実験のホストである早稲田大学から随時配信されるが、生データに近い Level 1 data で おおよそ200GB/月、解析に必要な処理を施したあとの Level2 data で 800GB/月 程度のデータサイズとなる。弘前大学ではこれらのデータを保存、解析するための計算機システムを準備し、必要なソフトウェアをインストールして解析にあたった。まず、これまでに開発してきた飛跡再構成アルゴリズムを実際の観測データへ適用し、各入射粒子の入射軸推定を行った。この入射軸が検出器上下面を通過しているものを解析対象とした。次に検出器上部に設置されたCHD(CHarge Detector)中のシンチレータのうち、粒子が通過したもののシグナルを用いて電荷の推定を行い、陽子、ヘリウム核を選別した。各粒子のエネルギーは、検出器下部に設置された全吸収カロリメータでのエネルギー損失の総和から求めた。これらと並行してモンテカルロシミュレーションを行い、その結果を用いて様々な検出効率の算出・検討を行った。CALET検出器は主に High energy trigger と呼ばれるモードで動作している。これは高エネルギー粒子を on board で選別するモードであるが、シミュレーションの結果を用いて、このトリガーモードの粒子選別効率を算出した。 このほか飛跡再構成効率、電荷選別効率、検出器の幾何学的な検出効率なども算出したが、陽子・ヘリウム核の絶対強度を算出するために、これらの解析方法、算出方法については現在詳細にチェックをしながら検討しているところである。
3: やや遅れている
これまでに準備してきた解析方法を実際の観測データへ適用し、陽子・ヘリウム核の絶対強度スペクトルを算出すべく解析をすすめているところであるが、いくつかの点で進捗の遅れている点がある。まず、エネルギー推定の方法である。現在は測定器下部に設置された全吸収型カロリメータでのエネルギー損失の総和から推定する方法をとっている。この方法は電子などの電磁成分については非常に良い精度でエネルギーを求められるが、ハドロン成分については衝突点が深く、吸収されないエネルギーがあるため、エネルギー分解能は悪くなる。この欠点を克服すべくカスケードシャワーの平均遷移曲線を用いた方法を検討してきたが、必要とされるシミュレーション計算が膨大なため準備が整っておらず、未だ実用化に至っていない。エネルギー分解能は観測スペクトルの形に影響するので、エネルギー推定法とその分解能についてはシミュレーションデータを用いて詳細に検討する必要があり、現在そのためのシミュレーション計算が進行中である。また、比較的エネルギーの低い領域では、陽子に対する電子の混ざりこみが問題となることが予想されているが、これに関する定量的な考察はまだ行われていない。さらに、本研究の目的には陽子・ヘリウム核のほかにB/C比も挙げられているが、現在のところBron、Carbon 成分についてはあまり解析が進んでいない。
まずはシミュレーションデータの充実を図る。必要なシミュレーションデータは、擬似的な観測データセットとエネルギー推定法のために必要な固定エネルギーでシミュレートしたデータセットである。これまでに陽子と電子については、擬似観測データといえるデータセットができあがっており、現在ヘリウム核の計算を実行中である。その後 Boron核、Carbon核についても順次揃えていく予定である。後者のエネルギー推定法のためのデータについては、以前に古い version のシミュレーションコードと検出器構造モデルを用いて作成したものが存在するが、最新のコードと実機に即した構造モデルを用いて再計算する予定である。これらの計算をなるべく短時間で実行するべく、随時計算機の増強を進める。その後、改めてエネルギー推定法の評価を行い、スペクトルに対するエネルギー分解能の影響を定量的に評価する。この結果と各検出効率を全て考慮したうえで、陽子・ヘリウム核の絶対強度スペクトルを算出する予定である。
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すべて 国際共同研究 (2件) 雑誌論文 (2件) (うち国際共著 2件、 査読あり 2件) 学会発表 (4件)
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