研究課題
昨年度の研究で、宇宙線の電子、陽子や原子核のスペクトルは、銀河系由来の高エネルギー成分の他に、近傍の連星白色矮星由来の数100GeV以下の成分が、かなり混ざっていることを発見していた。これは、特に、電子線で顕著であり、数GeV以下では、90%を越えていた。また、ヘリウム原子核(α線)より重い原子核宇宙線でも、数10%に及んでいた。昨年度は、日本物理学会で発表し、国内各地で口頭の発表を行った。本年度は、これを、天体ガンマ線観測、白色矮星が出すX線、中性子の加速機構、白色矮星の組成などの専門家の協力を得て、論文(論文リスト3)としてまとめた。論文の要点は、まず、数100GeV以下の宇宙線は白色矮星は、X線観測で確立されている電子線を放出する激変星が出す電子線と、ガンマ線観測で発見されている、陽子・原子核線を爆発的に放出する新星(NOVA)起源であると仮定する。この仮定のもとに、最新の宇宙線観測データを解析すると、数GeV以下では、Voyager1衛星の観測データを再現し、数GeVから100GeV間では、AMS02等の衛星で観測したデータを再現するモデルを作成する。このモデルを使って、銀河系中心で観測されているガンマ線のスペクトルと、強度を解析すると、銀河系中心には、太陽系近傍の2.5倍の白色矮星起源の宇宙線が存在することが判明した。これらの宇宙線は、銀河系中心付近の高密度の星間ガスと衝突し、数GeVから数10GeVのガンマ線が大量に生まれ、フェルミ衛星で観測された「GeVバンプ」を生んでいることでいるとの結論に達した。発表論文は、論文リストの3である。これ以外に、本研究課題の担当者が中心になり研究してきた、宇宙線起源天体、超新星残骸かに星雲と、白鳥座のX-1からのガンマ線の偏光の測定結果を、論文にまとめて、発表した(論文1,2)
2: おおむね順調に進展している
申請当初は、CERNのLHCなどで実績のある素粒子の相互作用をシミュレーションするプログラム、Pythiaを使い、低エネルギー側で実績あるシミュレータ、奈良博士のJAMとつないて、広帯域のシミュレーション・プログラムを開発する予定であったが、その中で、白色矮星からの重粒子宇宙線のデータが、AMS02から発表され、興味ある示唆が読み取れたので、方針を変更した。同じようなテーマで、有意義な結果が得られたことに満足しているが、当初の計画と違った方向に進展したので、残念ながら、100点満点でないかもしれない。その一方で、研究の進展にあわせて、柔軟に対応した点では、プラスであったと言える。
当初の計画と違った方向に進展し、白色矮星からの宇宙線が到来していることが確認できたが、現在、太陽系近傍の白色矮星で、定常にガンマ線を放出しているものは、同定されていない。ヨーロッパ宇宙開発機構(ESA)の、GAIA衛星のデータが、最近公開された。その中には、多くの太陽系に近い白色矮星がある。これらを、Fermiガンマ線観測衛星の未確認天体のリストと比較して見たい。対応が確認できれば、本年度発表した論文の結論をさらに補強することになる。
本補助事業の研究目的の一つである、JAMとPythia8を結合した宇宙線と星間物質の相互作用シミュレータ作成が完了し、ガンマ線のスペクトルを予測た。2019年3月までにその結果の取りまとめと行い、9月に開催される日本物理学会において発表予定である。学会での成果発表は研究遂行上極めて有益であり、その旅費に充当する。
すべて 2018
すべて 雑誌論文 (4件) (うち国際共著 4件、 査読あり 4件、 オープンアクセス 4件)
Monthly Notices of the Royal Astronomical Society: Letters
巻: 483 ページ: L138~L143
10.1093/mnrasl/sly233
巻: 477 ページ: L45~L49
10.1093/mnrasl/sly027
Publications of the Astronomical Society of Japan
巻: 70 ページ: 29~29
10.1093/pasj/psy010
Nature-Astronomy
巻: 2 ページ: 652~655