研究実績の概要 |
本研究の目的は、高速宇宙線と、星間物質の相互作用で生まれる、ガンマ線、ニュートリノ、電子、陽電子を、良い精度で推測する、シミュレーション・プログラムを開発し、高エネルギー天体物理に応用することである。この研究は、理論的枠組を、共同研究者の奈良寧が担当し、地球に到来する宇宙線を含む天体観測と比較し、天体物理学的に有意義な知見を得る部分は、代表者、釜江常好が行った。 理論部分は、宇宙線と星間物質の主たる構成要素、水素原子核(陽子)、ヘリウム、炭素、窒素、酸素の原子核を、入射粒子および、標的粒子と仮定した。入射粒子の運動エネルギーは、パイ中間子が発生するしきい値(約400MeV)から、稼働中のIceCubeニュートリノ検出器、稼働予定の宇宙ガンマ線望遠鏡(CTA)の最高観測領域(数100TeV)までを想定した。高エネルギー領域では、量子色力学(QCD)が、相互作用を支配する。具体的には、QCD相互作用のモデルとして、奈良が開発したJAMと、LUND大学で開発されたPythiaを、併せて使うことにした。 JAMは,これまで使っていた素過程を最新の実験値を元に、新たににフィットしなおした。また、相対論的量子分子動力学の枠組みにσ と ω メソンによる相互作用を取り入れたRQMD.RMFモデルを開発し、JAMに取り入れた。 観測の分野では、太陽がつくる磁場により、地球に到達できない、100MeV以下の宇宙線が、NASAのVoyager-Iにより、測定されたことが、最重要であった。分析結果、低エネルギーの電子が、太陽系近傍のIP型白色矮星で加速されている、可能性が判明した。残された課題は、これらIP型白色矮星を、X線望遠鏡で捉えることである。観測を始まった、ドイツの衛星、eROSITAの結果に期待している。
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