ニュートリノのマヨラナ粒子性を検証するために、二重ベータ崩壊実験研究が世界各国で行われている。二重ベータ崩壊核種のうちでCa-48は崩壊エネルギーが大きいため、バックグラウンドの影響を大きく受けることなく信号の測定ができるとされているが、Ca-48の天然存在比が0.187%と小さいため、その同位体濃縮技術の開発が切望されている。本研究ではCaの原子ビームに標的同位体だけに共鳴するレーザー光を照射することにより、この同位体に光子の運動量を付与し、選択的に原子ビームから偏向させ濃縮同位体を回収する手法が可能であり、有効であると考え、その性能を評価する目的で実験を実施した。 実験装置の概要は以下の通りである。真空チャンバー内でCaをヒータ加熱で550℃に加熱しCa原子蒸気を発生させ、2つのアパーチャでコリメートして原子ビームとした。Caの422.7nmの共鳴ライン近傍で同調可能な連続発振半導体レーザーを偏向用レーザーとして用い、Ca原子ビームと直角に交差させた。これに共鳴する同位体はレーザー光の伝搬方向に運動量を得て偏向する。偏向用レーザー照射領域の上方で各同位体の蒸気密度プロファイルを調べた。これにはQスイッチNd:YAGレーザーの第2高調波の集光、照射によるイオン化と飛行時間型質量分析の手法を用いた。これらにより、レーザー照射領域の幅、レーザーパワー密度等を変化させ、実験を行った結果、次のようなことが明らかになった。①レーザー照射による原子ビームの偏向には明瞭な同位体選択性がある。②本実験での範囲で得られた最大の偏向角は12mradであった。③一連の実験結果は開発したシミュレーションコードによる計算で(その精度は改善の余地があるが)ある程度説明ができた。②、③と関連して本実験装置の範囲で発生したCa-48のうちの23%を濃度11%の濃縮Caとして回収できる見積もりが得られた。
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