核電荷半径は核構造に関する有効相互の情報が得られる基本的な物理量であり、ミュオン原子X線測定はそれが得られる実験手法の一つである。我々はミュオン原子の生成効率を飛躍的(約10万倍)に高める重水素薄膜法の開発に成功し、これを不安定核実験にも適用しようとしている。この方法では、対象核を重水素薄膜に注入しRamsauer-Townsend効果を利用することで生成効率を向上させている。しかし、それでもなお、相当量の不安定核(RI)を要するため、特に、薄膜中に残存するRIの制御等に関する知見は必須である。 本研究では、重水素薄膜に代わりドライアイス薄膜を用い、そこにISOLからのRIを注入する体系を構築し、薄膜昇華時における、薄膜中のRIの挙動や回収に関する研究が行われた。実験では、薄膜の形成条件(冷却基板への炭酸ガスの吹付早さ、吹付総量、単層/多層など)を変え、薄膜に注入されたRIがドライアイスの昇華に伴い炭酸ガスと共に放出された後、冷却トラップ側で回収される効率が測られた。 回収法に関しては、高くはないが何れのRUNでも同程度の回収効率が得られており、効率の薄膜形成条件の依存性は小さく、主にトラップ側の幾何学的効率が効く見通しが得られた。 しかし、全RUNにおいて、ドライアイス昇華後の基板上にもRI(La-146の娘・孫核種)の残留が認められた。La-146イオン(E=27 keV)のドライアイス中での飛程は約27 nmであり、各RUNでは視認できる薄膜が形成され十分な厚さがあるにも関わらず、昇華後における基板上のRI残留は想定外であった。現時点においては、1)不完全な薄膜の形成、2)昇華過程における冷却基板材表面と注入原子間の化学的作用などが原因として考えられているが、2)に因る場合、不安定核の実験に向けた重水素薄膜法の開発に対して、新たな検討課題を抽出できたことになる。
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